婚約破棄かしこまりました
「私は真実の愛に気づいてしまった。愛しいポアラ、私の妃に。すまない、コーネリア、婚約は破棄する」
「アル様!嬉しいです!大好きです!」
ポアラはピョンと立ち上がり、壇上に駆け上がりアルトバルトに抱きついた。
男爵令嬢ポアラ・ヘルケトラは、アホっぽいピンクのフワフワの髪に同じくピンクの瞳の、多分脳みそもピンクであろうかわいらしい少女だった。
学園の入学式にはなぜかアルトバルトにお姫様抱っこされて遅れて登場し、学園生活では木に上って(猫がどうとか言ってたか?)なぜかたまたま通りかかったアルトバルトに助けられたり、なぜかアルトバルトと倉庫に閉じ込められて一晩過ごしたりと、なぜかが多いピンクの令嬢である。
たまにゲームがとか好感度がなどブツブツ言っている事もあるそうで何となくみんな遠巻きにしている存在だ。
それにしても男爵令嬢といえど一応貴族なのにピョンって……駆け上がって異性に抱きつくって……。
私たち女子生徒は一斉に扇子を半分閉じ下に向け、右中指を伸ばした。
"お前、下品じゃね"
「殿下…」
宰相の娘であり、月の光のような艶やかな真っ直ぐな銀糸の髪に、紫水晶の如き涼やかな瞳の月の女神とも謳われる公爵令嬢コーネリア・レシャールカは立ち上がり、哀しげに眉を顰めてアルトバルトを見つめた。
コーネリアの扇子がきれっきれに動く。
バッと閉じられた扇子は右斜め30度に傾けられ、右小指が立っている。
"クソが"
「殿下の尊いお気持ちは分かりました。婚約破棄かしこまりました。殿下のお幸せを祈っております……」
コーネリアは微かに震え、涙ぐみながらも慈愛のこもった笑顔を見せた。
閉じた扇子をゆっくりトンと自身の首に当てる。
"(社会的に)殺す"
そしてコーネリアはこの上なく美しいカーテシーをして、そっとその場をあとにした。
床には折れた扇子がポツンと落ちていた……。
"地獄に堕ちろや"