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17/62

男爵令嬢ポアラ・ヘルケトラ

 私の前世はブラックな保育園の先生だった。


 休憩時間は園児の連絡ノートを35人分書く時間で、勤務時間が終わってから書類を書いて明日の製作物の準備に壁面製作、で、終わらない仕事は持ち帰って午前様をかなり過ぎて寝る。

 運動会や発表会の行事前は作り物、衣装作りで、ずっと徹夜…。

 もちろん土曜日は出勤、日曜、祝日も持ち帰った仕事で終わる。

 園児のかわいさだけで頑張るしかない職場だった。


 そんな私の唯一の癒しはアルトバルトだけだ。

 乙女ゲームの名前は長くて忘れてしまったが、攻略対象はアルトバルト1人だけという珍しい乙女ゲームだった。

 夏の日差しのような輝く金の髪に、長いまつげの二重の青い瞳、甘やかなマスクの彼は、とにかくすぐ好感度がアップしてあの素敵な声で愛を囁き、私の疲れた心を癒してくれるのだ。

 私のような癒しを求める女子の為に作られた乙女ゲームであった。


 私の毎日は仕事と乙女ゲームの繰り返し。


 どうやら知らぬ間に過労死したようだ。



 そして…ソルリディア学園の最高学年である6年生になった朝、気づいたら私はヒロインのポアラになっていた。


 ポアラはピンクのフワフワの髪にピンクダイヤモンドのような美しい瞳の、あんな前世の私のような寝不足で髪はボロボロ、肌はカサカサで目の下に隈とは無縁の、キラキラした女の子だ。


 なぜ私がポアラになっているかはわからないが、本当にアルトバルトに会えるのだ。

 私はゲーム通りにアルトバルトを攻略していった。

 まずは出会いである最高学年と新入生だけが出席する入学式の朝だ。

 イベント通りにアルトバルトにぶつかり足を挫くフリをした。

 健気に大丈夫と笑顔を見せる私に、あっさりアルトバルトは好感を持ってくれた。

 早々のお姫様抱っこだ。


 それから次々とイベントをこなしていった。

 アルトバルトにリアルに耳元で愛を囁やかれ、間近にあの甘いマスクが迫るのだ。

 鼻血が出そうだ、最高だ。


 しかし、イベント通りアルトバルトと倉庫に閉じ込められた時だ。

 初めてくちづけられ、その胸に強く抱きしめられやっと気づいたのだ。

 彼はゲームの中の人物ではない。

 生きている1人の男性なのだと…。

 その温かな唇に、きつく抱きしめられて耳をつけたその胸の鼓動にドキドキした。

 初めて恋をした。


 ゲームでないと気づいた時、アルトバルトの婚約者のコーネリアに罪悪感が湧いたが、恋に落ちた私は止まれなかった。

 このゲームの悪役令嬢にあたるコーネリアは、特にヒロインに意地悪をしないので、処刑されたりひどい目に遭う事は無い。

 だから大丈夫と自分を騙し見ないふりをした。


 そしてあの卒業式のアルトバルトの告白、本当に嬉しかった。

 私はアルトバルトと結婚するのだ。

 今から王妃になるための教育はどれくらいかかるだろう?

 アルトバルトのために頑張ろう。


 幸せな気持ちで家に帰ると、いきなりお父さまに頬を叩かれた。

 王城から平民となる王命が下っていたのだった。

 コーネリアの気持ちを考えなかった罰が当たったのだろうか。

 お父さまはすぐさま私と縁を切った。

 お母さまは泣いていた。


 翌朝早く、簡素な服に着替えさせられると王城から来た馬車に乗せられた。

 馬車には同じように簡素な服を着たアルトバルトも乗っていた。

 どうやらアルトバルトも平民に落とされたようだった。

 私たちは手を繋ぎ、黙って馬車に揺られた。

 何日もかけて、王都から随分離れた寂れた村に着いた。

 名前もないような村だった。


 幸いなことに粗末だが住む家はあった。


 だが、それだけ。

 お金も食べ物も無かった…。


 始めのうちは2人で物乞いのように村を回って食べ物をほんの少し分けてもらった。

 それをアルトバルトは自分の食べる分も殆ど私に渡した。

 私は一口だけもらい、アルトバルトの口につっこむ。

 毎日繰り返すうちに、やっと私たちは笑えるようになった。

 大丈夫、前世の保育士の経験で畑の知識もある。

 何とかできる。

 私がアルトバルトを守るのだ。


 私はあっという間に前世のように髪はボロボロ、肌はカサカサで目の下の隈が消えないようになった。

 アルトバルトも甘いマスクは汚れて痩け、とても元王太子には見えなくなった。


 3年ほど経ってやっと村にも馴染み、畑も自分たちが食べる分ぐらいはしっかり実るようになった。

 前世の知識ありがとう。


 アルトバルトは薬で子の作れない体にされていたので、やはり赤ちゃんは出来なかった。

 私が子供が好きなのを知ると泣きながら謝ってきたが、王族の血が余計な争いになることを考えるとしょうがない。

 私はアルトバルトを抱きしめ、痩せた背を撫でた。

しょうがない…しょうがない…。



 ボロを着て、痩せ細り、貴族だった面影もない私たちを見たら、人は憐れだと言うだろうか?


 でも、アルトバルトはずっと変わらず私を愛し、抱きしめ続けてくれた。

 そして、私もずっと変わらずアルトバルトを愛し、抱きしめ続けた。


 だから私は胸を張って言える。

 私は幸せだと!









婚約破棄のお話の醍醐味はざまぁだと思ってます。

なので、このお話は迷いました。


始めポアラが王太子じゃなくなったアルトバルトを捨てるか、泥沼のケンカをさせるか考えました。

でも、私の中の2人のイメージだと違和感が拭えず、結局このお話になりました。


アルトバルトはあの王様の子なので一度好きになったら一途だろうなと思います。

ポアラも前世から好きなアルトバルトの事をやはり一途に好きだろうなと思います。

もちろん浮気も婚約破棄も、それまでのアルトバルトのコーネリアへの態度は許されるものではないけれど、平民になる罰を与えられ罪を償っているのなら、幸せと心に思う事は許されても良いのではないかなと思いました。

幸せだと言い切ったポアラを私は好きです。


ミリアムもコーネリアもかわいい我が子な感じですが、ポアラはアホやらかした我が子って感じがします。

長女コーネリア、次女ミリアム、末っ子ポアラってイメージです。

次女ミリアムにも早くいい人ができて欲しい…

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― 新着の感想 ―
境遇の落差に震えました。 これは2人にとって、充分な罰だと思います。 王族、貴族であった2人はいなくなって、平民として生まれ変わった。 前の身分に未練を見せず、互いを想い合う姿に幸あれ、と願わずには…
すごく良いオチだと思う。正当なザマァは大好きですが、なろうはやりすぎなことが多いから。 そもそも婚約って現実の歴史では別に絶対じゃないんで… 政略結婚だからこそ政情によって何度も切ったり結ばれたりす…
[良い点] こういう結末は少ないけどもとても好ましいです! クズの喧嘩は読んでてイライラしますしね(笑) 作者さんの感性が素晴らしいと思います!
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