国王バラドクス・ソルリディア
グ 「私は寵妃よ!愛されてるのよ!」
宰 「そうなんですか?」
王 「いや全く」
今回は国王バラドクスが如何にして国王になったかというお話です。
これを読めば国王が真に愛するものが分かります。
* * * * *
「あなたは王位争いに負けたのです」
異母弟マロガスの側近であったピアネス・レシャールカが言った。
私、第一王子バラドクス・ソルリディアは、父である王ガイダン・ソルリディアの側室オフィーリアから産まれた。
大国の姫であった王妃モーリスは3年経っても子に恵まれず、父は白百合と謳われた淡い水色の髪にアクアマリンの瞳の儚げな容姿の侯爵令嬢オフィーリアを側室として娶ったのだった。
しかし、王妃モーリスは私が産まれた次の年に王子を産んだ。
それが異母弟のマロガスだった。
マロガスは幼い頃から快活で、剣術が強く、人懐こい少年であった。
対して私は内向的で、体も弱く、人見知りで1人でいることの方が好きだった。
誰が見ても王太子は王妃の息子であるマロガスに決まっていた。
私は10才になる年に運命の出会いをした。
それは魅惑的で甘く、気儘に私を振り回し、時に気高く時に可愛らしく……私はすぐさまその魅力に取り憑かれた。
ショコラとの出会いだ。
全く王なんてなる気もなれる気もなかったから、すぐ母上に相談して、ショコラの本場であるフリアナ国にショコラを学びに留学した。
心から幸せだった。
毎日あの甘やかな香りに包まれ、滑らかなその感触を楽しみ、魅力あるその味に絡めとられて過ごしていた。
私はショコラの虜だ。
そして満を持して16才の年に帰国し、王都にショコラの専門店を構える準備を始めた。
私とショコラの愛の巣である店の名も決めていた。
……いよいよ王位継承権を放棄してショコラティエになるところで言われたのが、冒頭の言葉だった。
意味が分からなかった。
王位なんて望んでないから、王位争いになりようがないではないか。
「王位を望んでないのはあなただけではなかったのですよ。
マロガス様も王位は望んでおられなかった。彼の方は政治の世界ではなく、剣と共に戦いの世界にいる事こそ、ふさわしいお方なのです。 ( 訳 : マロガス脳筋政治無理 ) 私は側近として全力でその望みを叶えて差し上げたのです。 ( 訳 : 国家滅亡全力阻止 ) 」
は!?
王位いらない、王なりたくない争いに不戦勝で負けたのか!?
それからは地獄の日々だった。
愛しいショコラから引き離され、嫌だ王位いらない王太子ならないと言っても、はいはいと宥められ、逃げたくても、王妃モーリスとマロガス(物理)、ピアネスによって強固で盤石な外堀が構築され、鉄壁の一大派閥に囲い込まれた。
こんなの、ただの引きこもりの私にはどうする事も出来ないではないか。
私よりマロガスの方が王に向いていると、王と王妃に訴えた事もあった。
「あれは脳筋という生き物だ。あれが王になったらソルリディア王国は滅ぶぞ……」
2人はしょっぱい顔をして言った。
いったい、私がフリアナ国に行っている間にマロガスは何をしでかしたんだ!?
そして私が17才になる年に隣国ドミニエンド皇国と戦が始まり、マロガスはさっさと婚約者と結婚し、風のように戦場に行ってしまった。
残された私は気づいたら王太子になっていた。
さらに1ヶ月後には体調を崩した父上から、後は頼んだと王位を譲られ国王になっていたのだった……。
しかし、ここで誤算が生まれた。
脳筋マロガスの異母兄バラドクスは、ショコラ馬鹿だったのだ。
ショコラについては細かい歴史から偉大なショコラティエの名前、様々な種類や作り方まで一発で覚えるのに、どう頑張っても王に必要な知識が頭を素通りしてしまう。
もういっそ国が滅んで自由になりたいと思ってしまうほど心が病んでしまった。
白百合と謳われた母オフィーリアによく似たバラドクスの美貌は窶れ……楚々と伏せられた淡い水色のまつ毛の影は艶かしく、頼りなげな青白い頬は庇護欲をそそり、嫋やかな指先に紅い唇の物憂げなため息はどこか官能的で……何とも言えない幽玄の色香が漂うようになった。
それを見た周りはソワソワと、ピアネスを宰相にして王の仕事を丸投げすれば良いよ、王子を2人作れば後は必要な時に姿を見せるだけでショコラティエになって良いよとした。
バラドクスを不憫に思った母オフィーリア仕込みの演技の勝利だった。
……は?……
ピアネスに、とんだとばっちりが飛んできた。
しかし、嫌がるバラドクスを王位に据えた張本人の1人なので引き受けざるを得なかったのである。
いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。
☆バラドクスのママの名前とミリアムのママの名前が似ていたのに気づいたので、バラドクスのママの名前をソフィアからオフィーリアに変更しました。





大好評発売中です!