王太子愛を語る
いやいや、嘘でしょう!?
学園生活も締めとなる卒業式、卒業生代表として壇上に上った我がソルリディア王国の王太子アルトバルト(決して成績で選ばれたわけではない)は愛を語り始めたのだった。
王太子アルトバルト16歳、この国の第一王子であり、元はユガンタ帝国の末姫であった(自称)薔薇姫と謳われた正妃マリア譲りのキラキラしい濃い金の髪に、ハデハデしいまつ毛バサバサの二重の青い瞳、無駄にとおった鼻筋に、くどい厚みのある唇。
見目よくするためだけに鍛えた実用性のない筋肉。邪魔に感じる長い足。
見た目だけは10人が10人素敵、麗しいと言われる王太子殿下である。
前述の書き方で分かるように私は嫌い。
そんな王太子アルトバルトは婚約者でもない男爵令嬢ポアラ・ヘルケトラへの暑い…熱い愛を壇上で語り始めたのだった……。
私たち女子生徒は一斉に扇子を開き、左斜め45度に傾けて右中指だけ伸ばす。
"てめえ、何言ってんだ!?"
の恐ろしいほど揃った扇子ポーズだ。
この世界は各国共通の扇子言語がある。
扇子の角度、動き、開き方、指の添え方、腕の角度などなど、とにかく細かく組み合わせて扇子のポーズで本音を伝えるのである。
例えば、夜会で好みじゃない男性に踊りに誘われた場合、顔は笑顔で喜んでと答えても、扇子言語で"マジ勘弁、無理"のポーズをされたら、断られた男性の近くにいる人は必ず男性に話しかけ、断られた男性は、残念ながら仕事が…友人が…云々言って、恥をかくことなく丸くフェードアウトできる優れた言語なのである。
扇子言語は私たち女性の優しさだ。
全てを許される愛すべき言語である。
なので、貴族の嗜みとして女子は幼い頃から扇子言語を身につけ、男子は扇子言語が理解できないと自分だけがいらない恥をかくだけでなく、一族の恥となり、ひどい時は貴族社会から総スカンをくらって潰れてしまったりするので、命懸けの死に物狂いで扇子言語を覚えこむ。
おう、いつの間にか王太…いやもう名前だけでいいか、アルトバルトの愛の語りが締めに近づいたようだ。
「私は真実の愛に気づいてしまった。どうか、愛しいポアラ、私の妃に。すまない…コーネリア、婚約は破棄させてもらう」
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