3. さらば極楽、向かうは地獄
妖しい声が聞こえてきますね。このヨガ教室はあやしいぞ...
まだ寄り道ですよ、、物語動き出すのはは6,7話くらいですか?知りません
宙霊公園を出発して真面目な道を選択すれば、こんなジメジメした魅惑的な路地裏に迷い込むことはない。日中だというのに日差しがほとんど入らず、瞬くネオンの蛍光灯やら赤提灯の類が、陽気な太陽の代わりに闇路を照らしている。ここはオリオンの退廃区域:儚払横丁。表の通りを闊歩する普通の人々とは打って変わって、ここの住人は道のわきに隠れ住む。互いに目を合わせることを嫌い、干渉を嫌い、健康を嫌い、道徳を嫌う。踏み固まって黒ずんだガムに、陰鬱とした空気に混じる違法な煙の臭い。住みたい街ランキング一位を鼻で笑うような場所だ。
誰も彼もが人生という名のひどく険しい道を正しく選択して歩めるわけじゃない。そうして道を踏み外した日陰者が辿り着くように、俺も久々にこの路地裏に足を踏み入れた。相変わらず、純度100%のキチンとした狂人だけがコソコソと何かをしている。
右腕に巻きついた時計の針によると、そろそろ昼休みが終わる時間だ。5時間目授業の始まりを告げる鐘が遠くで鳴ったような気がした。
さきほどまでは午後の授業をサボる口実を考えていだが、仕事が見つからない今、高校を中退する選択肢が現実味を帯びてくると、そんな明るい未来思考もバカバカしく思えてきて止めてしまった。路地裏をさらに奥へと進み、『この先、通行禁止』の足跡付き看板を踏み越えて、フラフラと歩きついた先に目的の建物が見えてきた。3階建てのレンガ造りの建物。各階にそれぞれ店が開かれている。こんな場所でも不思議と人が集まってくるのだが、もちろん有象無象の日向者はいない。
建物の顔である正面1階は、珈琲屋が店を構えていて香ばしい薫風が鼻腔に届く。薄暗い木の板に黒文字で『こーひーや』と書かれた意地悪な看板が目印で、一見して歓迎色が薄いように思われるが、中に入ってみるとオレンジ色の温かい光に包まれたアットホームな空間だ。髭おじマスターがブレンドした中毒性のある『覚醒コーヒー』がオススメだが、何が入っているかわからないので行ってみたいという人は用心したほうがいい。ほかにも、メニュー表には載っていない裏メニュー『アイスコーヒー』を頼むと付いてくる特典『マスターの独り言』はオススメである。人生の重要な分岐点を一万人に一人という驚くべき確率でピタリと言い当て、その時どう行動すべきかを2000円で占ってくれる。もともとは、メニュー表の一番上に気高く大々的に『仏のお告げ~未来見えちゃいます!~(初回お試しコース無料)』と掲げていたが、あまりに占いが当たらないことからインチキ占い師の異名が囁かれ始め、自信を喪失したかいつの間にか裏メニューに追いやられ、仏から人に降格し、お告げから雑談に品下りした。しかし、メニューを隠し、ネーミングが控えめにしたからと言ってマスターが積極的に『アイスコーヒー』をオススメしてくるのだから何も懲りてないのだ。ちなみに俺も占ってもらったことがあるのだが、そのときは、
「天の迎えに待ちくたびれたらば黒血を飲み干せ。悪意は筒抜け善意は底抜け、なれば剥き出しの真心もって枯れた心を射抜けば面影の懐柔も容易かろう。儚き暗鬱の夜を払う願いは叶うも、用心は怠るな。打ち寄せる困難の始まりにすぎないのだから」
と言われたが、どういう意味なのだろうか。黒い血、つまりはマスターのコーヒーを飲めば仕事でも見つかるとでもいうのか、いじきたない商売魂だ。
2階のヨガ教室からは淡い光が漏れ出ている。以前アルバイト募集していたので応募したが、すげなく断られた。50件目に振られたのでよく覚えている。いまやバイト募集の張り紙も剥がされて、体の固い客の悲痛の叫び声かナニカが聞こえてくることから、すでに誰かを雇って楽しくやっているのだろう。待てよ?考えてみればこんな場所で経営するヨガ教室なんて、いかがわしいものだったのだろうか。なら高校生が不採用にされるのも納得だ。あまり深く考えないようにしよう。あれ?悲痛な声に混じって悦びの鳴き声が…。
3階のことはよく知らない。いまは真っ暗で窓も完全に閉じられているが、実は誰かが住んでいるだとか、何か違法なモノの売買が行われいるとか、そんな噂が絶えない未知の領域なのだ。ろくでもないことが行われていることは予想がつく。
さて、そんな地上の腐敗した楽園を訪れる機会もまたあるだろうが、今回はこの階段を下った先が終着駅だ。さらば極楽、向かう地獄に通ずる道の先、地下1階にひっそりネットリどっしりと店を構えるのは、『すなっくババロア』である。
冷えた鉄の扉を開けると、カランカランと小さな鐘の優しい音が耳の近くで響き渡った。
就活と同時並行なので書き溜めは少なめです。
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