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1. 100度目の嘘偽

 7月下旬、けたたましい蝉の産声が夏の始まりを告げている。昼飯の頃を過ぎようという刻、新緑おい茂る宙霊公園(エーテルガーデン)の噴水広場には、水場を求めてたくさんの人が集まっていた。赤ん坊を連れて散歩に来ている親子はもちろん、高校生に先駆けていち早く夏休みを獲得し、義務教育への鬱憤(うっぷん)を発散しようという若い学生連中なんかが多く集まる中、誰の目に留まるでもなくひっそりと、それでいてひときわ異彩を放つ者がいた。俺だ。


 俺こと高校2年生の神代(かみしろ)ゆづるは、夏季休業前にもかかわらず噴水の目の前に設置されたベンチに独り携帯端末を握り締めて(たたず)んでいた。夏の最高気温を更新しようというこの日に、真黒い学ランを身に(まと)い首のフックと、第一ボタンを含む全てのボタンを絡ませている。


 こんな暑苦しい格好をしていては、目の前を行きかう人々の注目を集めてしまうと思われるかもしれないが そんな様子はない。その証拠に、炎天下汗だくで脱水を起こしかけてフラつく青年の心配をしようとする者は見当たらない。


 さらにこのベンチ、大きな樹の下にあるのに何故かいっさい木陰を受け付けないことで有名なベンチである。設置した人間の気がフレたのだろうか、ベンチの色は学ラン以上の漆黒に塗りたくられ、たっぷりと日光を含むことから昼間は熱を帯びて誰も座ることができない。普段ならオブジェと化してナニモノも寄せ付けない哀れなベンチに、人が座っているというのに誰の目にも映っていない。俺がベンチの色に溶け込んでいるからではない。


 俺は幽霊でもなければ、ステルス能力を身につけた超人でもない。

 であれば、本当に誰の目にも映っていないのか。

 否。そんなことはない。


 実際には誰の目にも映っているのだ。ただ誰も見ようとしないだけ。正確には、この夏休み前の期間に学ランを着こんで、あのfucking hot ベンチに平気で座り込む高校生などいるはずがないという思い込みが、彼らの視界から俺という存在を無意識に隠していたのだ。これは、無数に並んだ同じ文字の中に、たった一つだけ異なる文字を隠したとき、それを発見するのに相当な注意力と意識が必要なのとよく似ている。この世には見ようと思わなければ見えないものばかりだ。


 事実、見ようとすればこの公園にも、普通の人間に混ざって様々な人がいることが分かる。あちらの自販機の横にスーツ姿で昼間から酒を飲んで煙を吹かし項垂(うなだ)れる人がいるが、あれはずっとまともだ。この程度の異常度の人は誰の目にも映る。一方で、その隣にいる超絶美女は誰にも見えないことだろう。手に持っているあれは、公園近くの老舗(しにせ)和菓子屋、寅松で購入したイチゴ大福だろう。食べ方が分からないのか、どうやら彼女は大福の表面についた粉を丹念に舐めあげているようで、もはや大福は原型を失いボロ雑巾のように(ただ)れてしまっている。それを上半身素っ裸でやってのける英雄の御姿など、誰の目にも止まっていいはずがない。みんなには見えないのか、いやぁ眼福眼福。


 とにかく、異常には意識が向かないものだ。そんな人間の危険な性質に目を向けるヒトもまた少ないのだが、このときは深く考えもしなかったんだ。違和感に目を瞑ってさえいれば、異常を黙って心の中にしまってさえおければ、人類を巻き込む事件の数々に巻き込まれることもなかったのだろう。いまになって少しばかり後悔している。



 Pi-pi-pi。手汗しみこむ携帯端末がメールを受信した。


『【アルバイト不採用の通知】 この度は、居酒屋マルノウチへご応募いただき誠にありがとうございました。厳正なる審査の結果、残念ながら…云々』


「くそぉ、高校生だってのがバレてんのかな…これで99件目の不採用だ。そろそろ不採用通知の文章バリエーションの無さに感動し始めてるぜ」


 俺は灼熱のベンチで、先日面接を受けたアルバイトの採用通知の情熱的な吉報を待っていたのだ。たったいまシュレディンガーの悲報を観測したわけだが。


 高校生は原則としてアルバイトをしてはならない。『専業学徒(せんぎょうがくと)に、学ぶ以外の(いとま)なし』、文武両道を掲げるウチの高校は小銭稼ぎを良しとしていない。社会学習なのだという屁理屈(へりくつ)も通用しない徹底ぶりだ。もっとも、課題やら部活やらのタスクに追われて時間を捻出できる者はそういないのが事実で、バイトをしたいと思う生徒もそう居らず、この校則に異を唱える者はいない。


 俺がアルバイトを探してるところを教師にでも見つかりでもすれば、指導だとか重い罪にはならないにしても、しっかりと注意を受けるに違いない。それに、生徒会の役員ともあろう者が白昼堂々ルールを破っていることを一般生徒に知られでもしたら、生徒会の信頼に傷がつくだけでなく会長の一条先輩や、副会長の夏目に迷惑をかけることになる。それだけは絶対に避けたい。


 故にこうして昼休みに高校を抜け出し、徒歩10分の宙霊公園(エーテルガーデン)の噴水前ベンチにて誰にも気づかれないように息をひそめて、こっそり通知を待っていたのだ。


 俺が炎天下蒸し焼きの刑大好きのドMでないことが分かってもらえたら幸いだ。


 さて、めでたくも99度目の嘘偽(うそいつわり)に俺が心痛めているのでなないかと心配してくれてありがとう。でも、これっぽっちも挫けちゃいないんだぜ?こんなこともあろうかと、実はもう一軒アルバイトの面接に行っていたのだ。こちらが本命だし、100度目の正直(しょうじき)ってよくいうじゃない?


 希望はまだある。


 Pi-pi-pi。絶望しみこむ携帯端末がメールを受信した。


『【アルバイト不採用の通知】 この度は、喫茶マルコポーロへご応募いただき誠にありがとうございました。厳正なる審査の結果、残念ながら…云々』


「…。これが現実か。RPGみたいにリアルは思い通りにいかないな。なにが『見ようとしないだけ』だ!偉そうに。いちばん現実が見えてないのはコノ俺だぜ。バイト探し始めた頃は半端な覚悟だったわけじゃない。情熱もヤル気も焦りもあった。でも、今の俺はなんだ!この結果を甘んじて受け入れようとしているじゃないか。なんて体たらく!なんたる無様!100度あることは101度あると言うならば、これ以上この木偶の坊に何ができるというのか…。あぁ、妹達に合わせる顔がないな」


 希望なんてなかった。

 希望という名のフィクションに(すが)った時点で俺は負けていた。


 猛火を(まと)った学ランを脱ぎ破る際にボタンがすべてはじけ飛んだ。ベンチからガバッと立ち上がると、噴水の広場にいた全員の視線を集めてしまった上、あの大福女にも一瞥(いちべつ)されて笑われた気がした。


 なんとか夏休み前に仕事(バイト)を見つけたかった。残る軍資金と相談して、俺が呑気に高校生をやってられるdead lineは夏季休業前までだと見切りをつけていたからだ。ボタンを回収したのち渋々、いつもより遠回りに高校へ戻ろうと思った。


 それでも諦めるわけにはいかんのだ。

 俺は、お兄ちゃんなのだから。


「でもやっぱり、確率的に言って理不尽じゃないかこれ。陰謀めいた何らかの組織的圧力が俺に不幸を押し付けているにちがいない…なんてな。はぁ、さすがに落ち込むぜ」


地球にはすでに宇宙人が来訪している。

大半の人には見えていないか、見えていてもそれが宇宙人だと気づかないだけ。

私はそんな風に思っちょります。

この物語は、"見える"人間視点で話を展開していき日常に潜む彼らと接触を図っていきます。 

バカな宇宙人も、意地の悪い宇宙人も、好戦的な宇宙人もいます。

人間と同じです。

思考体系や文化の違い、物理環境異なる星で特徴的に発達した身体、地球という星に集まった宇宙人のそれぞれの思惑、奇妙でリアル存在をたくさん描けたらいいなと思っちょります。


主人公が強くなる系ではないです。無双とは違いますごめんなさい。

でも楽しめると思います。多分、うん。

私からは皆さんの感想があまり見えないので、

「ブックマーク」や「評価」を入れた上で読み進めてもらえると一緒に物語を作っていっているようで嬉しいです。

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どうぞよろしくお願いいたします!

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