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デート -2-


「——っ?」


 ゆっくりと顔を上げたユザミさんが、そのまま街行く人を観察している。首を動かし、また別の人へ視線を移しているのが分かる。


 しばらくして、ユザミさんはバッと振り返った。


「だ、大丈夫ですっ!! わ、私、何も起きてないです!!」


「そうですよね! 良かった、左目で見なければ——」


 そこで、気づく。


「——っ」

「——っ!?」


 僕は背後からユザミさんを抱き留めるようにして左目を左手で押さえていた。となれば距離が近いのは当たり前で、ユザミさんも勢いよく振り返ったからさらに距離が縮まり——。


 目と目が合う。近すぎて視界にユザミさんの顔以外が映っていない。


 初めてユザミさんの顔をまじまじと見る。睫毛が上を向いていて目が大きく、リンほどではないが吊り目な方だ。細く曲線感があまりない眉毛は黒色で、すらっとした鼻筋の高い鼻。頬はきめ細かく、ピンク色の唇が薄く伸びていて綺麗な印象。


 額から目にかけての火傷に気が取られないほど整った顔立ち。そう今更ながら気づいて、心臓が跳ね上がる。


 僕は体が硬直して動けない。ユザミさんの驚きに満ちた表情から察するに同じ状況だろう。数秒にも満たない時間なのにかなり長く感じる。


「——んっ?」


 不意にズボンの裾を引っ張られて硬直が解かれ、視線を移す。


 そこにいたのはチビ。僕が気づいたことに気づくと、踏ん張るような素振そぶりをみせた。


 みるみると大きくなるチビ子。体長が六十センチぐらいになったところで膨張が止まり、ぐるっと回転して——


「イッダァァァッ!?」


 ——僕のすねにローキック。ぽすぽす音の鳴る風船のような体ではなく、ガチガチの岩みたいな足での攻撃。


 思わず声を上げてユザミさんから離れた。


「な、なんっ」


 チビ子の体はみるみる縮まり、柔らかい体に戻ると左右に揺れながら走り去っていった。


「ふふっ」


 ユザミさんの笑う声。かなり痛かったけど、あの心臓がはち切れそうな状況から脱することができたのはいい。


 ただ……もうちょっと手加減してほしかった。これは"イチャついたら許さない"というミーシャからの伝言なのだろうけど。


「ちっちゃいゴーレムちゃんに嫌われてますね、私達」


「……たぶんこれからも事あるごとに何かされると思います」


「でも、ちょっと安心な気もします」


 微笑みながら言うユザミさん。いつもより頬が緩んでいて、とてもご機嫌そうだ。


「初めて、堂々と前を向いて歩けます」


 左目を閉じながら前を向き、首を動かしながら色々なものを視界に入れている。


 空、建物、人——まともに外に出ず、上を向いて歩くことはなかっただろう。それが今は好きなように眺め、噛みしめるように景色を感じ取っている。


 それがどれだけユザミさんにとって嬉しいことなのか、僕には分からない。けど、その横顔を見る限り——幸せだというのは伝わってきた。


「これから色々なことを経験していきましょう。まずはご飯から!」


「——はいっ! よろしくお願いします!」


 僕達は左目を瞑りながら並んで歩き出す。


 周りから見たら少しおかしく感じるかもしれない。ただそれがどうでもよくなるほど、僕達の気持ちは高揚していた。



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