正しい -5-
「楽しんできて」
これは……ミーシャの気遣いだ。
僕はお金を持ち合わせていない。だからユザミさんと街に出ても食事を摂ることはできないし、何かを見て回ることもしにくい。
それを考えて渡してくれている。でも、それは。
「……ミーシャは僕が憎くないの?」
セシアの一言が、未だに胸に残っている。
嘘を吐こうとしていた訳ではない。裏切ろうとしていた訳ではない。一部、皆が正しいと思うこともある。
それでも……嘘を吐き、裏切ったことに変わりはない。ミーシャは僕を心配してくれていたけど、根本的な考えは皆と変わらないはずだ。
憎まれていても仕方ない。反対を押し切ってしまった僕に、彼女達の慈しみを受ける資格なんてないのに。
「憎くない」
「——っ、僕は君達を!」
「憎くないよ」
それなのに、なんでミーシャはいつもと変わらない表情でそう言ってくれるんだ。
「ある人を救いたいと思った」
精悍な表情のミーシャが僕の手を取る。
「その為に犠牲を払って、世界を敵に回す覚悟もした」
その手はゆっくりと持ち上げられ、僕の胸元に触れる。
「正しいと思ったことをやり通す。それって、悪いこと?」
その言葉はあまりに寛容で、心優しいものだった。失ってしまうと思っていた温かい心に触れて、目頭が熱くなる。
味方はいないと思っていた。十四人も殺した人を救うというのだから、その道中で命を落としてしまうことも考えた。
生半可な覚悟ではユザミさんを救えない。だから皆を頼りにすることはやめたのに。
「……ありがとう」
優しさに触れると隠れていた甘えに気づいてしまう。助けてほしいと思ってしまう。
でも、もう大丈夫。誰かが信じてくれているというだけで、頑張れる気がするから。
「ミーシャが前に言ったこと、覚えてる?」
「前に言ったこと?」
零れ落ちそうになった涙を拭いて聞き返す。するとミーシャは二、三、四と指を立てた。
「二人目でも、三人目でも、四人目でもいい」
「あ、あぁ……そ、それね」
それはミーシャが寝泊まり当番だった時の発言。付き合えるなら二人目でも三人目でも四人目でもいい、というもの。
僕が他の人と付き合ってしまう不安からかもしれないと思っていたけど、今も変わってないみたいだ。
「でも、子供を作るのは一番がいい」
……そんなことがまかり通っていいのだろうか。いや、いいはずがない。
冗談……にも見えない。こういう時、無表情だから分かりにくいな。
「次の寝泊まり当番、楽しみにしてる。渡したお金分、体で払ってもらうから」
「……へっ?」
僕はいつの間にか落としていた封筒を手に取り、急いで札を数えながらベッドに歩を進めるミーシャの後を追う。
「み、ミーシャさん? これたぶん百万Gだよね!? きゅ、九十九万G返すので! お手柔らかに——み、ミーシャさん!? 無視しないで!?」
一万Gだけ手に取って残りが入っている封筒を渡そうとすると、ひらりと避けられる。
結局ひらりひらりと避けられ続け、ユザミさんが準備を終えて部屋を訪ねてくるまで手渡しすることはできなかった。




