正しい -4-
「じゃあ……外で待ってる方がいいですよね?」
「……お部屋でも大丈夫ですよ?」
準備しながらという話だったけど話してることが重要なことだったから、準備は全く進んでいない。
着替えもあるだろうから外で待ってた方がいいと思うけど、きょとんとした様子だと着替えが頭に入っていないみたいだ。
「着替えとか」
「あっ、あ! そうですね……でも時間かかっちゃうと思うのでお部屋でお願いします! 終わったら連絡しますので……」
「それなら三〇三号室で」
僕がそう言って立ち上がると、廊下からポスポスポスという足音。次に扉の開閉音がした。
「……失礼しますね」
「……はい」
案の定、チビゴーレムだろう。さっき扉の開閉音が聞こえたのに部屋の中にいるということは、開閉音はフェイク。出ていったと見せかけて内側から閉め、聞き耳を立てていたんだと思う。
これは……ミーシャに注意しないとな。
ユザミさんに軽くお辞儀して、部屋を後にする。外にはチビゴーレムを抱えるミーシャが三〇二号室の扉に背中を預けていて、僕に気づくと足早に迎えてくれた。
「ミーシャ? 盗聴したり中指立てたらダメだよ」
「ミーシャ達はリトの保護者。知る義務がある。チビ子の意思はミーシャと関係ない。ね?」
ミーシャの同意を求める声にチビ子と呼ばれたチビゴーレムは頷く。
色々とツッコみたいところはあるけど、置いておこう。今まで命を狙われた時、皆が僕の行動を知っていたから助かったみたいなものだし。
「ミーシャはリトパワーが足りないから補給したい」
「り、リトパワー……?」
まぁ、言いたいことはなんとなく分かるけれども。
「すぐユザミさんが来ると思うよ?」
チビ子が青い霧状になって消え、僕の手を引いて三〇三号室の扉を開けるミーシャ。
「女性の準備は三十分以上かかる。覚えておいて」
「……はい」
いや、まぁ言いたいことは分かるの連続なんだけれども……でも、ミーシャも三〇三号室に入る必要は……って言っても、仕方ないか。
僕は大人しく歩を進めて、玄関で靴を脱いで細い通路を抜ける。
先に部屋に入っていたミーシャが通路の先で待っていて、腰のベルトにかけていた魔導書を開いて魔法陣を展開していた。
「これ」
魔法陣から現れた薄水色と白が基調の、綺麗な彫刻がある扉。それは精霊界と現世を繋ぐ門で、精霊を召喚する際に必要になる魔法だ。
その門の中にいた紫色のリボンをつけたチビゴーレムが何かをミーシャに渡して、そのまま僕に手渡される。
「何これ?」
少し分厚い封筒。ミーシャを見ると頷いてくれたので、中を開く。
「……」
何枚に重なっているのか分からないほどの札束。
「……あ、お金か」
しばらく理解できずに固まってしまっていた。
お金をこんなに持っているのは不思議ではない。高難易度依頼をやっていれば貯まると思うし、ミーシャなら簡単に達成するだろうから。
でも、なんで僕に。