正しい -3-
「……出ても、大丈夫でしょうか」
「心配ですか?」
「あ、いえ! リト様が隣にいて下されば大丈夫なんです。でも、顔を知られてないか心配で……」
「顔、ですか?」
「捕まった時に気絶させられていて、顔が知られているか分からないんです」
そういうことか。ユザミさんが拘束された時、どういう方法であれこの宿まで連れてこられている訳だから顔バレしている可能性があるんだ。
僕も陸に外に出ていないから噂になっているか分からない。
きっとバレてはいないと思う。今のところユザミさんが捕えられていることは隠蔽されている。
ただ宿に運ばれている時点で誰かに見られていたら、と考えると……疑われてしまう可能性はあるくらいか。
「……ん?」
廊下からポスポスポスと空気が抜けるような音がして、視線を移す。
そこにいたのは……なんか、柔らかそうなゴーレム。体長は三十センチくらいしかない。
『んご、んごっ!』
間違いなくミーシャの精霊だ。廊下にいたということは会話も聞かれていたということで、その為に置いていたのだろう。
『んごーっ! んごっ!』
チビゴーレムはぴょんぴょんと飛び跳ねながら頭の上に手を乗せている。
いや、これは……丸を作っているのか?
「……部屋を出ても大丈夫?」
そう聞くとチビゴーレムのキリッとした目が丸くなり、コクコクと頷いた。
なるほど。ミーシャは部屋を出ても大丈夫ということを伝える為に、盗聴用で廊下に待機させていたチビゴーレムで伝えてくれたんだな。
「あ、ありがとう」
盗聴していたことに怒りたい気持ちはありつつも、いてくれたおかげで安心して外に出れる。複雑な気持ちだけど感謝は伝えておこう。
『んご♡』
「……」
なんだろう、このイルフ感は。ミーシャが感情豊かだったりしたらこんな感じなのかな。
「か、可愛い……!」
口を隠すように手をあてながら目をキラキラさせ、呟くユザミさん。
何を思ったのか、そーっと手を伸ばしてチビゴーレムに触れようとする。
『ンゴォ!!』
「いたっ」
ベシッとユザミさんの手を叩き落とすチビゴーレム。
すると叩き落とすだけでは足りなかったのか、チビゴレームはグググと握り拳を見せると——
『ンゴッ!』
——ビンッ、と中指を立てた。
「ミーシャさああん!? ちょっと意思を引き継ぎすぎじゃないですか!?」
立てた中指をしまわせようとすると、チビゴーレムは足が短いのか可動域が狭いのか、左右に揺れながら走って廊下へと消えていく。扉の閉会音も聞こえた。
「す、すいませんあれはネタというか……」
「いえいえ。他の方もリト様を好きだというのが伝わってきます」
笑ってくれているあたり気にしていないみたいだ。
部屋を出ても大丈夫ということが分かったし、雰囲気も良くなった。中指はどうかと思うけど、ミーシャに感謝だ。