ユザミ・テトライアの日常 -3-
「スキルは……何かの能力がある、ということしか知らないんです。僕のスキルからお話しますね」
ユザミさんが信じたくないのはスキルの影響だ。
目が赤く発光している時にスキルが発動している、と聞いて、ではどうなったのか? ユザミさんが思い当たるのは二つ《《だった。》》
一つ目は街行く人の顔がそのままに見えること。二つ目は殺人衝動を抱いたこと。
何かの能力が与えられた場合、街行く人の顔がそのままに見えるなんて特定的な能力は考えにくい。それならば後者が妥当。
「僕のスキルは目を合わせた女性を惚れさせてしまう。僕といつも一緒にいる女性達は、僕が知らぬうちに発動させてしまったスキルの影響で好きにさせてしまいました」
きっと僕の言葉はほとんど届いていない。それほどユザミさんが焦っているのを感じ取ることができる。
「そして、ユザミさんのスキルは——」
「ま、待ってっ!!」
胸にあてている両手は震えていて、口を半開きにしながら俯いている。
その様子から僕は全て伝える必要はないと判断した。
「憶測ですが、たぶん……」
ユザミさんが優しい性格をしているのは、ここ数日話しただけで分かっていた。だからこそ、彼女にとってその事実が辛いものになる。
「……私が」
しばらくしてユザミさんが口を開く。
「私が殺さなきゃと思っていたのは……スキルのせい、なんですか……?」
僕は小さく頷く。
「お義兄さんが憎いからじゃ、ないんですか……?」
ユザミさんは自分を壊れていると自覚していた。
それはお義兄さんと近い年齢の男性がお義兄さんの顔に見えてしまうこと。それが別人だと分かっていても、心を取り乱してしまうこと。
そして、お義兄さんに殺人衝動を抱いてしまうこと。
「……はい」
しかし先日、窓の外を見てユザミさんは呟いた。
"お義兄さんではないのに、なんで私は殺したいと思っているのでしょうか"、と。
それが意味するのは一つ。
「私はっ、お義兄さんとは関係なく!! ……目を合わせたら、誰でも殺したいと……思ってしまうのですか……?」
正確に言えば条件はある。
被害者の年齢や性別に特徴があるように、殺人衝動を抱く対象には必ず何かしらの共通点がある。
だとしても——今、それは気にすることではない。
「——っ、そん、な……っ」
ユザミさんは目を見開いて涙を零し、ベッドに力なく腰を下ろした。
僕はその感情を知っている。——いや、多くの人の人生を狂わせてしまったと泣いていた僕より、遥かに辛い思いをしているはずだ。
お義兄さんと認識して恐怖と憎悪から命を奪うことと、全く関係の無い人でも命を奪うことはあまりに違う意味を持っている。