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失恋——? -1-


 三〇二号室を後にしたリンは廊下を見渡す。パタン、という扉の閉まる音が聞こえ、それが三〇四号室の扉が閉められる音と判断した。


 セシアが部屋を後にしてから時間は経っていない。扉が閉められる音がしたということは三〇四号室にいるということ。リンは後を追って入室した。


 玄関にはセシアの靴が無造作に脱ぎ捨てられていた。


 廊下と部屋の明かりは点いていない。耳を澄ますと、かすかだが嗚咽おえつが聞こえる。


 リンは部屋に足を踏み入れた。


「ぐすっ、う……ぁ……」


 ベッドの上、足を抱えてすすり泣くセシア。


 リンは細い通路を出てすぐの壁に背中を預けて腕を組んだ。


 顔を俯かせて考える。セシアにかけるべき言葉はなんだろうか。適切な言葉は思い浮かぶのに、それを口にするのが恐ろしく感じてしまう。


 適切な言葉はどれもセシアを肯定するもの。そして、リトを否定する言葉でもある。


 一度、リトを否定する言葉を口にした。失望したという一言だけで心に爪を立てられている感覚があった。


「……初めて、この感情を厄介だと思うわ」


 リンは顔をわずかに歪ませ、自分の生きる理由になりかけている恋愛感情に悪態をついた。


 考えれば考えるほど胸は締め付けられる。だからこそ、一息吐いて思ったことをそのまま口にする。


「アンタにしてはよくやったと思う」


 ズキッと激しい痛み。リンはそれを無視した。


 沈黙が続く。リンが顔を逸らしたと同時にセシアは膝にうずめていた顔を少しだけ見せた。


「……リンは、私に……ついてくる必要はっ、無かったんだぞ」


 セシアはリトを否定した。セシアにとって、人を蔑視べっしする行為はそれほどに重いものだった。


 リンが自身についてきたということはリトの考えに賛同できなかったということ。そしてリンのことだから、何も言わずについてきたわけではない。


 セシアはリンがしっかりとリトを否定してついてきたのを察していた。


「あたし、プライド高いのよ」


 リンは顔を上げて遠くを見る目で言った。


「幼い頃からできないことなんてなかったし、少し努力したら周りの大人ができないこともできたわ。だから、我が強いの」


 あんたも知ってるでしょ、とセシアを見ると、頷いている。リンはちょっとくらい否定しろと思いながらも話を続ける。


「あたしはアンタが正しいと思った。そして、あたしはあたしを曲げられない。ただそれだけの話よ」


 二度目の激しい痛みが胸を締め付ける。リンは気取けどられないように頬の内側を噛んで耐え凌ぐ。



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