別離 -2-
Ⅲ
「僕もだよ」
リトは小さく呟く。
「僕も、多くの人の人生を狂わせたよ」
その言葉に、セシアだけでなくリン達でさえも瞠目した。
リトにとって、自身とユザミの人生に大きい違いはない。
悲惨な人生なのは間違いなくユザミだろう。しかし無条件に発動するスキルに振り回されたことは変わらない。
無条件に発動する殺人衝動に抗うことができず、十四人の人生を狂わせたユザミ・テトライア。
無条件に発動する恋慕の強制を振りまき、多くの人の人生を狂わせ、今もなお四人の人生を狂わせているリト・アーネル。
命を奪っているか奪っていないかという違いはあっても、スキルに翻弄されている事実は変わらない。
「僕が君達を惚れさせてしまったように、彼女は人を殺すしかなかった」
挙句に彼女がそれをスキルのせいだと知る由はない。
それがどれだけ苦しいことなのか、リトは知っている。
「僕なら……僕だけが、彼女を救える」
ユザミの殺人衝動スキルは本来ならば抑えられるものではない。窓の外、多くの人を見てスキルが発動したにも関わらず抑制が効いたのは隣にリトがいたからだ。
世界中の全ての人がユザミの殺人衝動を理解することはできないだろう。
ただ一人、例外的に理解できるのは同じ強制力のあるスキルに悩まされ、苦しい人生を歩んできたリトしかいない。
「……ごめん」
その謝罪に、セシアはゆっくりと顔を伏せた。
自身の心にある確かな恋愛感情を、愛する人に狂わせてしまったと表現された。それだけで彼女の心は哀情で飽和しかけている。
その上で、愛する人が自身の曲げることのできない騎士道に反しようとしている。
セシアは最後に力を振り絞って問いかける。
「私達に嘘を吐いたのか……?」
リトは何も言うことができなかった。
「私達を、裏切るのか……?」
リトは、何も言うことを《《しなかった》》
セシアは力なく歩き出す。リトの横を素通りして細い通路へと姿を消し、やがて扉の開閉する音が酷く耳に残るほど響く。
次に行動に移したのはリンだった。
「——ッ」
甲高い破裂音が静寂を切り裂く。
リンの振り下ろした平手が、リトの頬を叩いた。
「セシアの分よ。……失望したわ」
無気力を感じさせる表情。リンもセシアと同じように部屋を立ち去った。
次にイルフがベッドから立ち上がり、座っているミーシャの手を取って細い通路へと歩き出す。
細い通路に入る手前。イルフはリトを視界に入れることなく隣で立ち止まった。
「救われることだけが、正しいこととは限りませんよ」
淡々と、無感情に近い無機質な言葉。イルフは歩き出す。
「リト……っ」
「ミーシャさん。行きましょう」
唯一リトを視界に入れ、心配の表情を見せるミーシャ。
イルフに手を引かれ、二人は部屋から立ち去った。
部屋を酷い静寂が包み込む。なんら音はなく、重苦しい感情の跡が残っている。
その中で立ち尽くすリト。その表情は、人の言葉で表現できるものではなかった。




