心、揺らぎ -2-
「このカーテンを開けるだけで、私は酷く取り乱します。外にいる義兄達が一斉に、じっと私を見つめてきます。義兄の声で見つけた、と言ってきます」
それがどれほど恐ろしいことなのか計り知れない。幻覚で、幻聴だと分かっていても耐えることなどできないだろう。
「気持ち悪く思ってしまったら、ごめんなさい」
するとユザミさんは右腕を覆い隠す長袖を捲し上げ、使用人服の時にも着用していた付け袖を脱ぐ。
「——ッ!!」
一瞬見ただけで目を逸らしてしまいそうになる。
右腕は無数の穴が空いていた。肘の辺りから指の先まで、貫通しているのではなく小型のアイスピックで何度も刺されたかのような、あまりに酷い虐待の痕。
指先に至っては穴が空いていてもおかしくない。穴が空いていないのはそうなるように調節されていたのだろう。
「私は酷く気弱で、幼い頃は義兄がいないと何もできませんでした。義兄のことは大好きで、両親がいなくなってもそれは変わりませんでした」
ユザミさんは付け袖を直し、長袖で隠す。
「私は無知でした。両親は旅行でしばらく帰ってこないという嘘を信じて、普段と違う生活に不満を抱き、呟いてしまう。義兄が目指していた魔法使いを諦め、生活費の為に働いていることを理解できず、遊んでほしい、と」
それはお義兄さんが狂ってしまう前の話。両親がいなくなり、不安に思う気持ちはお義兄さんも変わらない。
不安に思いながらも生活の為に魔法使いを諦め、働く。誰も助けてくれず、誰も頼れない生活だったはずだ。
「ある日、幼くて耐えきれなかった私は呟いてしまったんです。大嫌い、と」
お義兄さんにとって、それは頑張ってきたことを全て否定される言葉に近い。
「……それさえ言わなければ、こうはならなかったのに」
ユザミさんは後悔している。幼いユザミさんが事情を理解できないのも当然だ。それを口にしてしまうのも仕方のないことで、それで壊れてしまったお義兄さんの気持ちも分かる。
「お義兄さんの顔を見ると、殺さなければいけない衝動に駆られるんです。私は……今も気弱なままなのに」
カーテンに手をかけるユザミさん。その手は震えていて、襲い来る恐怖を抑え込んで開けようとしている。
「私が猟奇殺人を起こしてしまう人間になるところを、見ていてくださいね」
苦しそうに笑うユザミさんがカーテンを開いた、その瞬間だった。




