心、揺らぎ -1-
Ⅰ
「よしっ」
頬を両手でぱちんっと叩いて気合いを入れる。
フェンデルさんの話を聞いた翌日。ユザミさんの処刑まで残り十二日。
決意は変わっていない。できる限りユザミさんと話して彼女のことを知る。その上で、見送る。
なるべく同じ時間を過ごす為に、皆にはこれから約二週間寝泊まり当番を止めてもらうことにした。ユザミさんと同じ部屋で過ごすかどうかは彼女次第だ。
「全部終わったら皆に怒られそうだなぁ」
ユザミさんには恋慕スキルがかかっている。僕に好意を寄せていると思うから断られることはないと思うけど、その後の皆が怖い。
これは、皆に嫌われなければの話だけど。
僕は三〇二号室を出て、左隣の三〇一号室の扉をノックする。
「……はい」
すると中から扉が開かれ、アメニティの寝間着に着替えているユザミさんが現れた。
「おはようございます。ちょっと話したいことがあって」
するとユザミさんは挨拶を返した。手で部屋に入るよう促され、僕は先に部屋に入る。
後から部屋に入ってくるユザミさんを椅子に促して僕達は向かい合うように椅子に座った。
「フェンデルさんからユザミさんのことを聞きました」
ビクッと体が一瞬震えたのが分かった。
この話はユザミさんにお義兄さんの記憶を蘇らせるような内容だ。辛い思いをさせてしまうけど、話さないわけにはいかない。
「僕、は……酷いと、思いました。僕なんかじゃ計り知れないくらい辛かったと思います」
「……はい」
「でも、十四人の命を蔑ろにすることも……できないんです」
口下手すぎる自分が嫌になる。約二週間後に処刑されることを伝えるのは難しいと分かっていた。それでも、もっと言い方があっただろうに。
「ユザミさんは……十二日後、処刑が……決まっています」
昨日からずっと考えていたことなのにこうも上手く伝えられないなんて。伝えられる側のユザミさんからしたら、嫌味に近い意味だと捉えられてしまうかもしれない。
「……すみません」
思わず顔を伏せる。どんな顔で接していいのか分からない。
「謝らないでください。リト様は何も悪くありませんから」
顔をあげるとユザミさんは苦々しく微笑んでいた。
「こちらへ来て頂いてもよろしいですか」
立ち上がって窓に歩を進めるユザミさん。僕も立ち上がって後をついていく。
背後に立つと、横に立つように促された。
「私は、壊れています」
カーテンのかかった窓に向かって呟いた言葉。僕はその意味を理解できなかった。
「若い男性の顔が、全て義兄に見えるんです」
「——っ」
全てが繋がる感覚。壊れているのはユザミさんの心のことだと理解した。