思い -2-
「今、彼女は何歳なんですか?」
イルフはユザミのことを殺人鬼と呼んでいる。フェンデルの手前そう呼ぶべきではないと判断し、ユザミを彼女と表現した。
「十九歳です。今年で二十に」
イルフは顎に手を当て考える。
今年で十九ということは虐待が終わってから二年。大量猟奇殺人事件の初犯は二年ほど前だと記憶にあり、時系列的に合っている。
二年で十四人の殺害。大体一か月に約二人だがリトが標的にされるのは一人殺されてからすぐだった。これはどういった関係があるのか考えるが、答えは出ない。
「弟さんの死体は?」
「隠蔽、しました。世間に周知されればレトロアとユザミは……」
言葉を紡がなくても理解する。四年間も拷問していた義兄と残虐な殺害をした義妹。どちらもまともな生活は送れなくなるだろう。
「アンタはあの女が猟奇殺人してたことを知っていたの?」
あの女、と表現したリンをイルフが睨みつける。リンはフンッと鼻を鳴らして顔を逸らした。
「一か月前の事件で気づきました。……ユザミではないと信じていたのですが」
フェンデルは悔しそうに眉間に皺を寄せていた。
「ユザミは……弟の影響で大体十五歳から二十五歳までの男性を怖がります。そのこともあって違うと言い聞かせていました」
言い聞かせていた、という言葉を深読みすればもしかしたらという思いがあるということになる。しかしそれに触れる者はいなかった。
「なんで殺すの?」
ミーシャの簡潔で核心を突いた言葉にしばらく考える素振りを見せて首を振るフェンデル。
十五歳から二十五歳といえば虐待されていた時のレトロアの年齢がそんなところだろう。怖がる理由は理解できるが殺す理由にはなり得ない。
これはフェンデルに聞いても仕方ないと判断したミーシャは口を閉じる。
そう判断したのはセシア、リン、イルフも同じだった。
知りたいのは、気弱に見えるユザミが何故狂気染みた殺人事件を起こすのか。義兄のことが関係あると分かっても、それにしては腑に落ちない点が数多くある。
「僕が聞きます」
リトが頭をあげて名乗り出る。四人は思わず出かけた言葉を抑え込んで口を閉じた。
今の話を聞いて憐憫の情がある以上、リトをユザミに接触させるわけにはいかない。
どんな事情があったとしてもユザミは処刑されるべき。それが四人の考えで、リトが接触すれば意思が変わってしまう可能性があったからだ。
「……適任だけど今日はダメよ。明日にして」
しかし自分達が聞いても情報は得られないと分かっている。リンは今日落ち着く時間を取らせてリトと話し合い、明日に回すことを選んだ。
リトはそれに渋々頷く。