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ロビニアス家 -3-


 今でも覚えている。


 実家の扉を開けた時、あまりの異臭に顔を歪めて鼻をつまむ。家の電気はどこも点いておらず、人がいるようには思えない。


 手紙で家に戻る日時を伝えていた私は異変を感じ取って廊下を歩く。


「レトロア? ユザミ? いるのかい?」


 声をかけても反応はない。廊下の電気を点ける。


 私は焦燥に駆られていた。心臓の鼓動が早まっていて五月蠅うるさい。頭が揺れる感覚。足が重い。冷や汗を掻いている。体に力が入る。


 嫌な予感がした。


 リビングの扉を開けて真っ先に見えたのは残虐に見舞われたレトロアの姿だった。


「はっ、は……っ、あ……」


 顔の半分は欠損していた。目は見開かれ、白目を向いている。首の半分は繋がっておらず、指は何本か切り落とされていた。全裸で、裂かれた腹から腸が飛び出している。性器が無い。足は折れてありえない方向に曲がっていた。筋肉も骨も露出している。


「——っ、——、——……」


 うまく息ができなかった。湧き上がってきた感情は恐怖一色。腰が抜け、その場に力なく尻餅をつく。


 すると視界の端で何かが動いた。


「ひッ!?」


 そこにいたのはユザミだった。


 手に刃物を持っている。それだけで私はユザミが《《これ》》をやったと理解した。恐怖で手足が尋常じゃないほど震える。


 ぱた、ぱたと歩いてきたユザミが廊下の明かりの範囲に入り、気づく。ユザミの体は血に塗れていると共に、全身に傷という傷が、まさに無数に存在していた。


 瘦せ細っている。爪が無い。体のあちこちが紫色に変色してあざだらけ。顔の右側の額と目周りが異様なほどただれている。服も破られていて薄汚い。長く綺麗だった髪も焦げていて面影が無い。右腕の無数の小さな穴が空いていた。


「た゛、すけ゛、て」


 その一言で私は正気を取り戻した。


 それからユザミの話を聞いて、私は事の重大さをより理解する。



 ユザミは十三歳から十七歳になるまで虐待されていた。虐待の内容は多岐に渡り、それらの残虐な内容は言葉にするのがはばかられるほど。四年もの間、ほとんどの時間を椅子の上で拘束され過ごしたという。



 私はどこかで気づいていた。



 レトロアが壊れていること。ユザミに何かあったこと。それでも自分のことを優先してしまった結果、悲惨な結末を招いた。


 それがロビニアス家の顛末てんまつ。二人で隠し続けてきた真実。




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