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ロビニアス家 -2-



 母と義父が姿を眩ませた。理由は未だに分からない。


 

 その頃、神聖ヴィロナス王国と敵対関係にあった国が貿易制限を受けていた。その国は人智帝国ブリテンの隣国でいつ戦争が勃発してもおかしくない状況だった。


 その国からの観光者が多い人智帝国ブリテンのホテル業が苦しい経済状況になったのは言うまでもない。俺が勤めていたホテルも人員削減などの対応があり、決して余裕は無かった。


「大丈夫だよ、兄貴がいなくても俺が頑張るからさ」


 心身的に余裕がなかった私は優しい弟の言葉に罪悪感を覚えながらも任せてしまった。


 レトロアは魔法使いになることを夢見ていて、働きながら魔法学校に通っていた。俺が仕送りしていたこともあって学費の工面くめんはできたが、生活費までとなると上手くいくわけもなく。


 レトロアは魔法使いになる夢を諦め、働いた。


 幼い頃から魔法に憧れていたレトロア。その夢を諦める選択肢をしたのは俺にとって心苦しいものだったが、当の本人からしたら俺の比ではない。


 俺は俺で生活が大変だった。人が来なくともやることはある。人員削減されたことで働く時間が膨大に増え、心も体も疲弊していた。入る給料も減り、一定の仕送りをするのも厳しく感じながらも続けた。


 身を削り、心を削り、働き続けた。どんなに苦しいと感じても俺が頑張れたのはレトロアとユザミに仕送りをしなければいけないからだ。


 あの二人は大切だった。間違いなく、大切だった。


 レトロアとユザミが打ち解けていない頃から、ユザミが心を開き始めレトロアが新しい遊びを考えて二人で遊ぶ。笑顔に溢れ、成長していく二人を見て、それが心の拠り所になっていた。


 しかし俺は思い出せないことがあった。


 俺が頑張るからと言った時の、レトロアの表情。


 俺は——その表情を見ていなかったのかもしれない。


 一日、一日、一日と過ぎていく。毎日レトロアとユザミに手紙を出した。次の日、二人から手紙が返ってくる。


 今日は何があった、明日は何をする、何を食べた、何を買った、何に行った。


 その手紙だけが俺を安心させてくれるものになった。数年の間、彼らと顔を合わせていない。


 それから一年、二年と時間が過ぎた。手紙を送るのは一枚毎にお金がかかるから、と一枚に二人が好きなことを書いて送るようになった。


 それからまた一年、二年と時間が過ぎた。一枚の手紙にレトロアの文が長々と連ねられ、ユザミの文が無いことが多かった。


 それからまた一年、二年と時間が過ぎた。やがてレトロアの手紙のみになり、「頑張ってるよ」の一言だけになった。


 その頃に神聖ヴィロナス王国が隣国に勝利し、しばらくして神聖ヴィロナス王国の人間が少しずつ人智帝国ブリテンに流れてくるようになった。


 それでも私は顔を出さなかった。その頃の私は宿の総支配人に抜擢ばってきされ、多忙の毎日を過ごしていたからだ。


 それからまた一年、二年と時間が過ぎた頃。レトロアから手紙が返ってくることがなくなった。


 心配になった私は無理に時間を作って実家に戻ることにした。

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