強くなれない理由
「言っておくけど素振りも筋トレも禁止よ」
聞こえないように呟いたはずなのに否定が入る。
「……リト?」
隣にいるセシアがジト目で見つめてくる。
「あたし、常に魔法で五感を強化してるから地獄耳なのよ。鍛えるようなことしたら怒るからね」
恋慕スキルで惚れさせてしまった以外で一番大きな問題はこれだ。
「……僕、強くなりたいんだけど」
彼女達は僕が強くなろうとすることを全否定する。理由は今から彼女達が口にするだろう。
「私がリトを守るから安心してほしい」
「あたしがいれば襲われることはないわ」
「弱いリト様の方が愛らしいですよ」
「精霊に守らせる」
「だから違うんだってぇ……」
とまぁ、強くなりたい男の性を彼女達が知るはずもなく。
そういう訳で強くなれないまま彼女達に守られてばかりの旅だ。
「とりあえずあたしの国に戻る? スキルの研究も進んでいるかもしれないし」
「この街も聞いてまわりましたが目ぼしい情報はないようでしたね」
僕達はリンの祖国である魔法国家マギアを拠点としている。
魔法研究機関にスキルの研究をお願いしながら、僕達は国や街を転々としてスキルについて聞き回る。それを繰り返している。
「そうだね。宿がないと次の街——旧帝国アトロワに行けないし」
「そ。じゃあ転移するわよ」
リンが詠唱を始めると僕達を囲むようにして魔法陣が展開される。
転移とは訪れたことのある場所に魔力を残すことで可能になる瞬間移動の魔法。
魔法陣が発光したと共に視界が真っ白に埋め尽くされる。
僕達は魔法国家マギアに向かうのだった。