選択 -2-
僕は倉庫での出来事を全てを話した。
ユザミさんが僕に投げかけてきた質問の数々。強い、弱いに固執していて弱かった自分が強くなったこと。暴力を愛と感じさせられた過去があるように感じたこと。
それだけではない。意識を保つので精一杯だったのに覚えているのはそれほど彼女の言葉が悲痛に溢れたものだと分かったから。
最後に伝えたのはユザミさんの顔にある火傷の痕がお兄さんによるものかもしれないということ。
「意味が分かりませんね」
それらを話し終えた後、一番に口を開いたのはイルフだった。
「リト様が彼女の発言全てをお伝えしてくれたわけじゃないと思いますが、虐待されていたことは確かでしょう。ただ蛆虫の件が分かりません」
「虐待したヤツがお兄さんだったとして、他の人に手を出してるのも意味わかんない。狂ってるのは確かね」
伝えたのは思い出せる限りのことで所々短縮してしまったり覚えていなかったりがあるかもしれない。
それでも虐待されていたという事実は間違いないと思う。
「ミーシャは性格が気になる。人を殺せるような人に見えなかった」
「私もそう思う。あの怯えた様子を見ると、堂々と猟奇殺人ができる人間性には思えなかったな」
セシアとミーシャが気になっていることは僕も気になっていた。
スキルが発動する前と後で性格が違いすぎる。残虐で狂気的で殺人を楽しんでいるとも思えた性格とまるでいじめられていた頃の僕を想起させる弱々しく自信の無い声色や表情。
一言で表現するなら、二重人格。その可能性も十分にある。
「とにかく本人に聞いてみないと分かりませんね」
イルフの言う通りだ。本人に聞けるのが一番良いんだけど王国側にいるなら話は難しい。
「聞く?」
「え」
いとも簡単に言うミーシャに驚く。
「ヤツは三〇一号室で拘束している」
「……拘束?」
王国側に引き渡されたわけではなく、三〇一号室にいるということに驚く。
それと同時に拘束という単語が引っかかった。
「逃げ出したり暴れ回られたら困るから拘束魔法で縛ってミーシャの精霊で見張ってるわよ」
「……そっか」
皆の対応は正しいと思う。仕方のないことだ。
「拘束魔法と精霊はもう大丈夫。ちょっと話してこようかな」
怒られるとは思ったけどずっと拘束魔法で縛って精霊に見張られているというのも可哀想だ。
怒られるのを覚悟で言った後、皆の表情を確認するとセシアとリンが特に顔を顰めていた。