拷問 -3-
「——あれ? なんで」
ユザミさんが震えている手で口を覆う。
「わ、私っ、なんでこんな……っ」
その瞳から感じるのは恐怖の情。先程の狂気的な様子と全く違う行動と表情からスキルの影響を受けていることを感じ取った。
「ご、ごめんなさっ、ごめんなさい! 私、なんてことを……っ」
ただそれは好きという感情より自分の行動を後悔しているように感じた。
彼女は間違いなく人智帝国ブリテンを脅かす大量猟奇殺人犯だ。拷問に近い拘束と躊躇のない暴力はまさに狂っているという表現が正しい。
「だ、大丈夫だから! これを、外して欲しいんだ」
僕は痛みを抑え込みながら訴えかける。
もう彼女は僕に危害を加えないだろう。それは様子を見れば分かる。
「は、はい!」
まるで人が変わったかのように感じる。部屋を訪れてきた時でもないし、嬲ってきた時とも違う。
僕はこの感じを知っている。これは、ずっと昔の僕だ。
「ご、ごめんなさい……本当にっ、なんてお詫びしたら」
ユザミさんが手足や腰を絞めていたロープを外してくれて僕はゆっくりと立ち上がる。
「色々、と……聞きたいことがあるので、それを答えてくれれば大丈夫です」
意識が飛びそうになるのを無理やり留める。出血も多いし殴打された場所は紫色に染まっていた。
ここは——倉庫? どこか分からないけど、使えるものを探そう。
「とにかく、止血を……しないと」
倉庫の棚にあった布を手に取ってナイフを固定するように腕に巻きつける。
刺されたのは右腕の前腕。ナイフは抜くと出血が酷くなるから抜けず、これ以上組織を傷つけさせない為に固定する。
その後に布を上腕に巻き付けた。
「くそっ」
「わ、私がやります!」
左手のみで強く巻くことができず、止血しようとしていることに気づいたユザミさんが布を上腕で縛ってくれた。
とりあえず、今できる応急処置はこんなものしかない。正直この怪我は今すぐイルフに治癒魔法を施してもらわないと腕がダメになる気がする。
「……もう大丈夫ですか?」
そうしたいのは山々だけどこの状況を皆に見られたら——そう考えるだけで背筋が凍る。只事では済まないだろう。
僕に対する殺意や心情などを問う意味で聞くと、ユザミさんは今にも泣きそうな表情で頷く。
「後で聞きたいことがあります。もし、あなたを殺そうとする女性が現れたらリオが手を出さないで欲しいと言っていたと本気で伝えてください」
今からどうにかして宿に戻るつもりだけど宿まで意識が続いている保証はない。その道中にでも皆に会ったらユザミさんは酷い目に遭うでは済まない。
だけど一つだけよかったことがある。
それは彼女は快楽の為に人を殺しているんじゃなくて、何かの理由があるということ。
話していたことを思い出す限り、ユザミさんが狂ったように嬲るのは誰かのせいだ。最後にお義兄さんと言っていたのも何か関係がある。
それを、皆に伝えないと。