拷問 -1-
Ⅰ
「——?」
襲い来る吐き気で目を覚ます。
光がないのか視界は真っ暗。視界に何も捉えることはできず、首を動かしてもそれは変わらない。
自身の異変に気付いたのは体を動かそうとした時だった。
「なん、だ……?」
体が、動かない。いや、動かせない。指先や足先は動かせるのに腕や足、腰など大きい部分は何かに固定されているようで動かすことができなかった。
状況を思い出す。
僕は部屋にいて……ユザミさんが尋ねてきたんだ。手渡されたドリンクを飲んで——その後に。
「起きました?」
「っ!?」
聞き覚えのある声。これはユザミさんの声だ。
「ユザミさん、ですよね。何して……」
「誰が喋っていいと言いました?」
淡々でありながら威圧のある声。
ユザミさんであることは声からも間違いない。しかし状況があまり分かっていない。
おそらく椅子に座っていてロープか何かで手、足、腰が固定されている。もう一つ分かるのは部屋が暗いのではなく目に何かが覆い被さっているくらいだ。何かをあてられているような異物感がある。
「あなたは本物ですか? 偽物ですか?」
「は?」
質問の意味が分からない。本物? 偽物? どういう意味だ?
「なんて、本人だったら本物なんて言いませんよね。変なことを聞いてしまってごめんなさい」
声からユザミさんだと分かっても声色は部屋の玄関で話した時と全く違う。
威圧するような、怒りを含むような、失望を含むような——多くのマイナスと、少しのプラスが混じった声色。
「私ね、強くなったんです。もう弱くて侵されてばかりの、何もない私じゃないんですよ」
この人に話は通じない。そう一瞬で分かるほど彼女は僕を気に留めていない。これは僕に話しかけているというより伝えるだけの言葉だ。
「痛みを教えてくれてありがとうございました。苦しみを教えてくれてありがとうございました。あなたのおかげで私は弱いの意味を知ることができました」
ダメだ、手足はびくともしない。それほど強く固定されていて逃げ出すのは不可能。
そうなればどうにかして話をするしか——
「ねえ、ちゃんと話を聞いています——かっ?」
「——ガ、ッ!?」
ガンッという音と共に右手に激痛が走る。
何かで手を打ち付けられた。あまりにも容赦のない一撃に恐怖を覚える。
「何も言ってくれないんですか? 私はいつもちゃんと答えていたのに」
「何を、言って」
「暴力って愛なんですよね?」
瞬間、同じ激痛が右腕を襲う。
「——ッ!!」
なんだよ、これ。どうして、こんな。
「ユザミさんッ、やめてくださ——」
「こうやって愛を確かめるんですよね?」
「ぎっ、があ゛ああ゛ああああ!!!」
今度は右太腿。
鈍い痛みと固い物質から打ち付けているのは鉄が材質の鈍器だと分かった。