リト・アーネルの失踪
Ⅲ
大量猟奇殺人事件で裏路地の立ち入り規制がされてから四時間。時刻が十七時を回った頃、とある宿の前に生命国宝と謳われる四人が立っている。
その四人とはセシア・テレスリア、リン・フィセンシュリオル、イルフ・アーシェスリア、ミーシャ・ペトラ。
二手に分かれて大量猟奇殺人犯の手がかりを探っていた彼女達は宿の前で合流していた。
「何か見つかった?」
「いいえ、何も。捜索は専門外ですし」
リンの問いにイルフが答える。
「この子達も見つからなかったって」
ミーシャはしゃがみ込み、足元にいる丸い小型の精霊を撫でる。
召喚魔法士であるミーシャは約五千の精霊と契約している。
精霊はそれぞれ特技があり、丸い小型の精霊は鼻が利いて機動力のある精霊。ただそれを以てしても大量猟奇殺人犯の手がかりを掴むことはできなかった。
「あたしもダメ。魔力の揺れもそれっぽいのは感知できなかったし、やっぱり夜に動くのかしらね」
魔力とは人類なら誰しもが持つ生命力のこと。魔法に変換することができる。
魔力の揺れとは即ち心の揺れだ。感情が乱れれば乱れるほど魔力の放出の抑えが効かなくなる。
その魔力の揺れを感知できるリンはそれをあてに探していたが、目立った魔力の揺れは無かった。手がかり無しだ。
「私も捜索は不得意だ」
リンとミーシャは得意とする分野で効率的に捜索することができるが、騎士のセシアと治癒魔法使いのイルフは足で探すしかない。
どうあれ結果は無し。捜索は一旦中止だ。
「良いお店があったからリトを連れて行きましょ」
「捜索中に良いお店が印象に残っているのか?」
「ほぼ魔力感知任せだもの。視線は自由よ」
ちょっとした会話を交わして四人は宿に入り、三階へと繋がる階段を上る。
「そういえばセシアさん。手を冷やした時に何かありました?」
「な、なななななな何もない」
「絶対何かあった」
イルフが思い出したかのように言うとほぼ即答で動揺しながら否定するセシア。それに何かあったと断定するミーシャ。
「ホント、二人きりにさせると何かしらあるわね」
呆れた様子で言うリン。
「リンさんは二人きりの時に何かあったのですか?」
「な、なななななな何もないわよ」
「絶対何かあった」
そんな会話をしながら四人は三〇二号室に着き、リンは魔力を流して部屋の扉を開く。
「た、ただいま」
「ただいま」
「ただいま戻りました」
「……ただいま」
四人はリオが出迎えてくれるのを期待していつもより声を張って言う。
しかしリオは現れない。
リオは見送ったり出迎えたりすることを忘れない。疑問に思った四人は靴を脱いで部屋に入る。
「——リオ?」
部屋にリオの姿はない。
セシアはすぐに脱衣所と風呂場を確認するが、いない。
イルフはお手洗いを確認するが、いない。
リオは三〇二号室にいない。それに気づいた四人の中で真っ先に異変に気付いたのはセシアだった。
「今すぐリオを探すんだッ!!」
怒号に近い声。あまりに覇気のある言葉に三人は体を震わせると同時に緊急事態であることを察した。
セシアの視線の先にあるのは玄関の端に揃えられたリオの靴。
リオがいないことで考えられるのは外出中だということ。それならばリオの靴があるのは辻褄が合わない。
可能性があるとしたら、それは——。
それを見た三人の表情は途端に変わり、四人は部屋を飛び出した。