危機 -4-
「突然の訪問、失礼致します。私は使用人のユザミ・テトライアと申します」
開けなくてよかった。女性の声だ。
壁を壊したこともあるしテーブルの破壊もこれから報告しにいかないといけないから出ないままじゃ失礼か。視線を合わせないようにしなきゃ。
「は、はい? どうしました?」
僕はゆっくりと扉を開けて女性の首から上を見ないようにする。
女性の服装は着丈の長いメイド服で、それとは別に右腕が付け袖で覆われている。視線をあげると、肩のところに特徴的な髪が見えた。
肩の奥、左側には白い無造作の髪が垂れていて、右側は色だけ違って黒色だ。
そういえば前に部屋を訪問してきた人をリンが対応した時、髪色が白と黒に分かれていたと言っていた。きっと彼女のことだろう。
「実は本日の夕食頃にサービスのドリンクを配布予定でして、お口に合うか試飲をして頂く為、訪問させて頂きました。他の方々はいらっしゃいますか?」
「すみません、丁度出ていったばかりで」
ユザミさんは両手でお盆を持っていて、その上には小さいコップが一つ。透明なグラスだから中身がオレンジ色の飲み物だと分かる。
「そうでしたか。では試飲をお願いして、こちらを夜にお持ちしてよろしいかご確認お願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかりました」
小さいコップを手渡され、僕は一口ほどしかない液体を呑む。
なんだろう、この味は。今まで飲んだことない味で、美味しくはない。
「あの、これって何——」
そこで僕は気づいた。
ユザミさんは他の皆がいるか聞いてきたのに、なんでコップが一つしかないんだろう?
「——?」
フラッと視界が揺れる。壁に寄りかかって体勢を立て直そうとするも、うまく体を支えられない。
「ぁ」
気づけば倒れていた。そう理解するのにも時間がかかり、視界はぐらぐらと回ったまま。
次第に暗くなっていく視線の先。
「おや……なさい」
小さく笑うアザミさんの口が見えた。