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危機 -3-


 言われてみて、確かに。一か月ほど皆と旅しているけど冷やすような怪我さえしたことがない。


 そもそもセシアと同じで一か月前は冷やせばいいことしか知らなかった。水なら何分だとか、氷なら何分だとか、そういうのを知ったのは旅の初めの頃に本を読んだからだ。


 僕が役に立てることは限られている。この知識もイルフの治癒魔法があれば必要ないし、使える場面は少ない。


「じゃあ本を読んで知ったからかな。イルフがいない時もあるかもしれないから、その時に僕がちゃんとした処置ができる」


 僕ができるのは日常生活の枠組みだけだ。料理だったり、家事だったり、軽い処置だったり。


 使える場面は少なくとも、使えたら皆の役に立てる。それなら学ぶことに抵抗はない。


「こういうところでしか役に立てないからさ。だから僕の為に冷やされてね」


「——っ」


 よし、もう五分経つかな。そろそろいいだろう。


 水を止めて手を離そうとした瞬間、ふと首筋に何かが触れた。


「せ、セシア?」


 それがセシアの顔だと気づいたのは良い香りと視界の端に映る綺麗な髪があったから。


 セシアは僕の首に顔を埋めていた。


「……」


 セシアの接触は珍しい。触れること自体が少なく、僕を誘ってこようとするのもあくまで言葉。しかも僕に了承を問うものがほとんど。


 何を思ったのか分からないけど、そうしたい情に駆られたのかもしれない。少しだけならいいか。


「今日は」


 小さく呟く声。初めて聞く吐息を含んだなまめかしいセシアの声。背筋を情欲が走ってゾクッと体が反応した。


「髪を乾かしてもらって、一緒に寝たい」


 あまりに情欲をそそる声に体が硬直して動けない。


 するとセシアは籠手と手甲を持って足早に洗面台を後にする。すぐ扉の開閉音が聞こえて、部屋を出ていったのが分かる。


「……ダメだダメだ、しっかりしないと」


 懐かしい感覚だ。イルフが僕を誘惑してきた最初の頃、こんな感情が渦巻いていた。


 誘惑に耐性がなかったから翻弄ほんろうされ、何度情欲を抑えたことか。イルフなら度が過ぎてなければ情欲を抱くことはなくなったけど、セシアは慣れない。


「っ! はい!」


 ノックが響いて僕は玄関に駆け寄る。


 皆が去ってからノックするこの感じ、もしかしたらフェンデルさんかもしれない。


「どちら様ですか?」


 扉を開けて女性だったら取り返しのつかないことになるから確認で声をかける。



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