危機 -1-
Ⅰ
人智帝国ブリテン中央通りの裏路地、主に倉庫や配送ルートとして使われている人家の無い通路は立ち入り制限がかかっていた。
裏路地に入る通路の入口で距離を取るよう促す騎士団。
三〇二号室からでもそれが確認できる。それほど近くで事件が起こった。
それは大量猟奇殺人事件——十四人目の被害者が倉庫で見つかったらしい。
知っているのはそれだけ。見つかったのは数時間前で、報告を受けた僕達が向かおうとしたけど人混みに僕は入れない。
皆が現場を確認しにいって、僕は帰りを待っている。
「……っ」
部屋の扉が開く音が聞こえて迎えに行く。
「みんな、どうだっ——」
様子を聞こうとした言葉は彼女達の溢れ出る感情に気圧されて引っ込んだ。
「話しましょう」
細い通路の先にいた僕の隣を通り過ぎる。最後方にいたミーシャは通り際に僕の手を取って、皆でテーブルを囲む。
その刹那だった。
「——ッ!?」
バギャン、と豪快な音を立ててテーブルが粉砕される。
「……すまない」
テーブルを殴り壊したのはセシア。歯を食いしばり、痙攣する鼻筋。眉間には皺が寄せられていて、激昂しているのが伝わる。
「人がいたから怒れなかった」
ミーシャの簡潔な説明で理解する。きっと酷い現場だったんだ。
セシアは冒涜を嫌う。騎士の鑑と言うべき彼女の性格は忠誠心が高く、民の為にと戦い続けてきたことから国を想い民を想う優しい性格だ。
だからこそ民が殺されたのを現場で見て、憤怒はあったが人の手前見せることができず、爆発した。
僕はリンに視線を移す。それに気づいたリンが察して口を開いた。
「胸糞悪いわ。手足を椅子に固定されて殺されていたもの」
その言葉に思わず体に力が入る。
手足を椅子に固定して殺す? それは殺人というより拷問だ。それで死んでいるのだから、より質が悪い。
「とりあえず分かったことは一つです。大量猟奇殺人犯は普通ではない——いえ、狂っている」
イルフが空を睨みつけるようにして言う。
僕達はしばらく大量猟奇殺人事件は起きないだろうと思っていた。それは世界最強と呼ばれる皆がこの国に来たことを犯人も知っているだろうから。
それを気にしないかの如く行われた犯行。狂っていると表現する理由も分かる。
「これは侮辱よ。あたし達が来たのに一ミリも気にしないで殺すなんて……絶対に取っ捕まえてやる」
セシアとリンから感じるのは明確な怒り。イルフは怒っていながらも冷静で何かを考えている。ミーシャは表情から読み取り辛いけど心なしか眉が下がっている気がする。