リーシャと寝泊まり -4-
「サラサラしてて引っかからない髪の手触りがいい」
僕は一つずつ伝えることにした。
「三つ編みと銀色のアクセサリーが似合ってる。眠そうだけど金色の目は宝石みたいで綺麗」
それは今まで僕が感じたことのある、ミーシャの良いところ。
「とても良い匂いがする。小さい朱色の唇が可愛らしい。身長が小さくて癒されるのに色気がある」
焦ることはない。思い出すことじゃない。既に僕の中にある。
「華奢な体をしてるのにとても強い。喧嘩したら一瞬でやられちゃうね」
小さく笑う。ミーシャは顔を上げて、目を見開いて僕を見ている。
本当はまだまだいっぱいあるんだ。口にしてしまえばずっと続いてしまう。だけどそれらは皆にも当てはまるところがある。
だから僕は伝える。
「ミーシャだけが、僕に本当の気持ちでいつも接してくれる」
セシアとリンは接そうとするけどどうしたらいいか考えて行動することが多い。羞恥心とかで咄嗟に否定することもあるし、間違っているのに肯定することがある。
イルフは策士でどう誘惑すればいいとか悪戯心とか色々なものが混ざって行動に移している。
それらは別に悪いことじゃない。現にちゃんと彼女達の想いは伝わっている。
「ドライヤーしてほしいからドライヤーして欲しいと言う。触れたいから触れる。好きだから好きと言う」
ミーシャはいつもそうだ。伝えたいことに捻りを加えない。断られないように付け加えることはあっても、最終的にしてほしいことはしてほしいと言う。
「混じり気のないミーシャの言葉だから、僕は素直に受け取れる」
目を見開いたままのミーシャの表情が少し歪んで、涙が頬を伝う。
ちゃんと伝わってくれてるみたいで良かった。
「それがミーシャだけの可愛いだよ。大丈夫、ミーシャはちゃんと可愛いよ」
僕は親指を立ててできる限りの笑顔を見せた。
初めて大きく崩れるミーシャの表情。声を漏らし、手で涙を拭いて余計に歪んで、ぐちゃぐちゃになった顔。
それを見せてくれるのが僕は嬉しい。
「僕はスキルを解除するまで絶対に誰とも付き合わない。だから安心して」
ミーシャの頭に手を乗せて撫でる。
やっぱりサラサラで引っかからなくて手触りのいい髪だ。
「もしスキルを解除できて、ミーシャがそれでも僕を好きでいてくれたら。その時にまた考えさせてほしい。好きにさせておいて、こんなこと言ってごめんね」
最低なことを言っているのは自覚している。でも誰と付き合うとか、スキルを解除する前に考えていられないから。
「ひぐっ、う、ん……ほん、とうに、ね……」
ミーシャが涙でぐちゃぐちゃの顔で満面の笑顔を見せる。
立ち上がって、ミーシャは僕に抱き着いた。
「——大好き」
うん、知っている。やっぱり混じり気のない大好きだ。
「え、うわっ!?」
そのままミーシャが歩き出して僕は後退する。二歩ほど下がったところでミーシャが足をかけてきて、そのまま後ろに倒れた。
ギシィ!!
ベッドが大きく音を立てる。
ドンドンドンドン!
ドンドンドンドン!
両壁から壁を叩く音。いや、もはや殴る音だ。
「……あはは」
「えへへ」
とりあえず壁を壊されなかったのは良かった。
「このまま寝る! おやすみ、リト!」
「え!? だ、ダメだよ着替えて! せめて電気——ミーシャさん!? ミーシャさーーーーーん!?」
それから動こうとしても身体強化したミーシャに押さえつけられ、着替えさせることも電気を消すことも叶わなかった。