リーシャと寝泊まり -2-
「ミーシャ、その……何か服を着て」
あまり意識してなかったから気づかなかったけど、ミーシャの服装は肩や袖のない薄っぺらなワンピース。着丈も太腿あたりまでしかなく、ズボンを履いてるのか分からない。
前傾姿勢になったことで色々と見えてしまいそうだった。
「? こういう服」
「……ちゃんと下履いてる?」
念のため確認しておこう。
「履いてる」
「……ズボン?」
「パンツ」
「それは当たり前なの!! ズボン履いてるか聞いたの!!」
ミーシャはこういうところがある。さも当たり前のような顔をしてるから油断ができない。
「今日はこれで寝るつもり」
「駄目です」
「嫌です」
「嫌です!?」
まさかの駄目に嫌返し。
今日、たぶん一緒にベッドで寝ることになる。それはイルフの喘ぎ事件で決まったことで、ミーシャはそれを求めてくるはずだ。
あんな格好をされて寝られたら堪ったもんじゃない。
「くちゅっ」
くしゃみをするミーシャ。
とにかく風邪を引かせるわけにはいかない。でもミーシャが頑固なのは知っているし、このまま続けても押し問答だ。
僕はベッドから自分の枕を取って、ミーシャに渡す。
「とりあえず隠して。後で着替えてね」
ミーシャは枕を胸元に抱く。
よし、これで見えることはない。一旦は安心だ。
僕はミーシャの頭をタオルで拭き始める。
「すぅー」
「……」
わしゃわしゃ。
「すぅーーー」
「…………」
わしゃわしゃわしゃわしゃ。
「すぅーーーーーーーーーーっ」
「ミーシャさん? 駄目で——」
「嫌で——」
「嫌じゃないです」
枕に顔を突っ込んで匂いを嗅ぐミーシャの顔と枕を離す。
「じゃあ今は嗅がない」
今はっていうか時間問わず嗅がないで、とは言わずに頭を拭く。どうせ問答が続くから、それよりミーシャの頭を早く乾かす方が重要だ。
「後でいっぱい嗅げるから」
「……」
これは今日一緒に寝るよって意味だ。こちらを伺うように小さく笑う様子から分かる。
「痛くない?」
「うん」
わしゃわしゃ。ミーシャも大人しく身を委ねるようになって、一通り髪を拭き終わる。
「お願いしていい?」
「うん」
テーブルの上にあるドライヤーをミーシャに手渡す。
僕は生まれつき魔力量が少ない。魔力量イコール魔法適正みたいなもので、まあしっかり魔法の才能がないということだ。
ブオォンと熱風を出すドライヤーを髪にあてる。
「熱くない?」
「うん」
ミーシャはいつもこんな感じだ。頷くなら頷くだけで、最低限のことしか口に出さない。
無口というより言葉の単語の数が少ない。慣れたのもあるかもしれないけど、一番滞りなく会話ができるのはミーシャだ。