強くなりたかっただけなのに
「ぐすっ、もう嫌だ……」
半べそをかきながら言う。
宿が爆発して追放され、トボトボと次の宿を探しに歩く道中。
これで宿の爆破は七回目。その度に僕は怪我してるのに後ろの四人はピンピンしてるのだ。
「すまない、リト。もうしないと約束する」
宿の弁償代を後に誰が払うかワイワイしている三人を置いて、セシアが隣で歩く。
「本当に?」
「あぁ、もうしない」
「それ前も約束したよ?」
「ぐ……っ 今度こそ」
「それ前も言ってたよ?」
問い詰めるとセシアはぐぬぬと唸った後、観念した様子を見せた。
「……リトの膝は譲りたくないんだ」
きゅっ、と僕の服の裾を掴んで小さく呟く。
頬を赤らめながら異性の裾を掴む様子はまさに恋する乙女。
いつも凛々しくクールな雰囲気のセシアが甘えてくるのは二人の空間の時だけだ。
「はぁ……」
しかしこれも恋慕スキルの効果だと考えると、裏切っている気がして罪悪感でいっぱいなのだ。
「そ、そのっ、リト?」
「うん?」
顔を赤らめたまま、声は高く、視線を逸らすも目がぐるぐるしているセシア。
「きょ、今日、私が寝泊まり当番っ、だったよな……?」
寝泊まり当番というのは、宿で泊まる時に一人だけ僕と同部屋になるということ。
その理由は簡単。生命国宝で最強の美少女である四人を侍らせていることから、僕は世界中の男の嫉妬の対象。
今は落ち着いているが少し前は命を狙われることがあった。
「宿が見つかればね」
命を狙って来た人達が四人によって酷い目に遭ってから狙われることはなくなった。
なのに、危ないからという理由で寝泊まり当番が設けられている。
「な、なら! 見つけるから! だから——」
おそらく——というか、確実に彼女達が同部屋になりたいから。これは自惚れではなく事実。恋慕スキルのせいだ。
「だから、お、おな、同じベッドでっ、寝r」
「ダメです」
ちなみに接触は禁止。ベッドも別々。夜這いも何度かあったがやましいことは全て回避してきた。
それは僕ができる唯一の彼女達への誠意。スキルのせいでこうなっているのに、彼女達に手を出していいはずがない。
「な、なんでダメなんだ! 理由を聞かせてくれ!」
「普通ダメでしょ!? なんでいいと思ったの!?」
「ぐ、ぐぅぅぅ……ッ」
むしろこれで引き下がるのはセシアとリンだけで、他のみんなは問答無用でベッドに入ってくる。
それでは二人に示しがつかないから部屋の隅っこで膝を抱えて寝ることもしばしば。