アシュテルゼン王 -2-
「さて、早速本題に入らせてもらおう。この度は大量猟奇殺人犯の捕縛依頼の受諾、ありがとう」
再度頭を下げる国王。ちょっとだけ調子が狂う。
「呼び立てたのは他でもない、大量猟奇殺人事件について。生命国宝方と話して折り合いがつかなかったのだ」
「折り合い、とは……?」
「大量猟奇殺人犯の処罰だ。我が国は大量猟奇殺人犯を捕らえ次第、公開処刑と晒し首の刑に処すことを考えている」
フェンデルさんの言っていた通り、公開処刑と晒し首。
しかしここまで話す限り、アシュテルゼン王がそれを決めるような人には見えない。
「人の知恵を重んじる我が国ブリテンで犯してはならないものがある」
温厚な様子から一転、その表情は厳格と精悍さに溢れていた。
「人を侵すこと。知恵を侵すこと。我が国は人と知恵に救われている。将来、我が国がどれだけ変わろうとそれだけは不変であり、人と知恵を裏切ることは許されない」
そこで一旦間が置かれ、アシュテルゼン王は続ける。
「今、我が国は恐怖の禍にある。そしてそれ以上に民は激昂している。その怒りは死でさえ贖えない、深きものだ」
十六歳から二十五歳までの男性を十三人殺している。それは無差別で被害者に関係性はない。
非人道的なそれは確かに許されていいものではない。
「敢えて言おう。やろうとしていることは善行ではない。だが、悪行を裁くには時に悪側でなければならない」
被害者はもちろん、関係のない人でも怒りを覚えるような出来事だ。
「アーネル君、彼女達を説得してほしい。処罰について賛同を得られなかったのは君の一存だと聞いている」
皆が賛同をしなかったのはスキルのこともあるけど、きっと僕がそれを拒否するかもしれないと思ったからだろう。
アシュテルゼン王は公開処刑と晒し首を悪側だと自覚している。それでも実行を考えているのなら、それは相当の覚悟のはずだ。
「奴に救いようはない。彼女達を説得してはくれないだろうか」
しかし、僕は一つだけ疑問を覚えた。
大量猟奇殺人犯は本当に救いようがないのか、と。
「お言葉ですが、アシュテルゼン王。一つ、申し上げたいことがあります」
僕は続けて大量猟奇殺人事件の依頼を受諾した経緯を説明する。
自分が恋慕スキルを持っていること。低い可能性だが大量猟奇殺人犯がスキルを保持している可能性があること。それが関係して殺人を起こしているかもしれないこと。
僕ならそれを止められるかもしれないということ。
アシュテルゼン王は僕の言葉一つ一つに親身になって聞き、時に頷きながら聞き終え、しばらく。