アシュテルゼン王 -1-
「ありがとうございます!」
僕はリーボの手綱を引く男性にお礼を言う。リーボを撫でて男性を見送り、前に広がる王城を見上げた。
国王直々の出頭命令当日。僕は王城の前に着いていた。
「……ふう、行くしかない」
やっぱり一国の王様と話すのは緊張する。粗相があったら、と思うと怖いけど怖気づいていられない。
「リト・アーネル様でお間違いないですか?」
「っ!」
王城の扉の前で立っていた女性に声をかけられる。僕はすぐに視線を逸らした。
視線は合っていない。これで大丈夫なはず。
「はい、リト・アーネルです」
「ようこそお越し下さいました。ご案内致しますのでこちらへどうぞ」
表情は分からないけど声色の変化がないことからスキルは発動しているとは思えない。
スキルはやっぱり目を合わせることで発動するみたいだ。それだけで一安心。
「こちらで国王様がお待ちです。ノックの後、お返事があり次第ご入室をお願い致します」
しばらく歩いて豪華な扉の前。案内人がそう言ってお辞儀し、去っていく。
僕は一息吐いて扉をノックした。
「入りなさい」
中から威厳のある声。僕は扉を開いて入室する。
「お初にお目にかかります。大量猟奇殺人事件について内談をご希望とのことで参りました、リト・アーネルと申します」
国王を視界に入れる前に用意してた言葉を言う。
しかし返答はない。
「ははは」
数秒間が空いて、国王の笑い声が聞こえた。
「……?」
笑われた理由が分からず、僕は顔を上げる。国王は作り笑いでもなく、普通に笑っていた。
「いや、失敬。生命国宝の方々を従えていると聞いていたから、どんなものかと思えば。思いも寄らず好青年みたいだ」
僕は心の中で安堵する。
笑われた理由がわからなさすぎて何か失態をしてしまったのかと思ってたけど、違うみたいだ。良かった。
「初めまして、リト・アーネル君。私は人智帝国ブリテン国王アシュテルゼン・リ・ブリテン。かけてくれたまえ」
僕はお辞儀してアシュテルゼン王が座っている向かいの椅子に腰を下ろす。
「突然呼び出してしまってすまないね」
「い、いえ! そんな」
アシュテルゼン王が頭を下げる。
国王というから傲慢な人を想像していたけどアシュテルゼン王は優しい風貌をしている。
還暦ほどの年齢でベージュの髪が肩元まである。細く優しい目をしていて口元は髭で隠れていて見えないが、顔は少し縦長だ。
顔から国王には見えないが背筋の良さや堂々とした様子、見るからに分かる服装の素材の良さ。所々に王家の威厳が見える。