リンと寝泊まり -1-
「それでどういうことかしら?」
「……ハイ」
今度は土下座ではなく正座から始まる。僕を囲むように仁王立ちする生命国宝の皆様。
話は簡単だ。筋トレがバレた。それだけ。
「リトは剣を取ることや鍛えることは必要ないんだ」
現在の時刻は二十時。皆が帰ってきてすぐに筋トレを止め、見られてはいない。
それでもバレたのは汗を搔いていたのが原因だ。言い訳したら火に油を注ぐから素直に白状したら、この状況。
「……お言葉ですが、その……強くなりた——」
「不可能よ」
「不可能!? 不必要じゃなくて!?」
辛辣すぎて驚いた。この前は襲われることはないわって言ってたのに。
「まあまあ。リンさんの本音を代弁しますと……リトが強くなっちゃったらいざとなった時にあたしが助けられな——ふんっ!」
「こ、のおおぉぉ!!!」
襲い掛かったリンと組み合い始めるイルフ。
とにかく一番怒るリンの意識がイルフにいってくれてよかった。
「リトにはなるべく戦ってほしくないんだ。リトに何かあったら、私は……」
しゅんとするセシア。
僕に何かあったら心配してくれるのは嬉しいけど、やっぱり強くなりたい気持ちは変わらない。
これもいつかちゃんと伝えないといけない。
「ミーシャは鍛えるのが悪いことだと思わない」
まさかのミーシャが味方についてくれる。前は精霊に守らせると言っていた。
「でもダメって言われてるのに隠れて、した。それは嫌」
そう言われると悪い気がしてきた。これからはするならするでちゃんと言おうかな。
「だからこれしてほしい」
そう言ってミーシャが後ろから取り出したのは何かの機械。
「これは……ドライヤーか」
ドライヤー。聞いたことがある。確か繋がっているコードに魔力を流すと熱風が出てきて、髪を乾かす為の機械。
人智帝国ブリテンは特にこういう魔力を魔法以外に変換する分野に長けていて、これが人智帝国と言われる所以だ。
「セシアは知ってるんだね」
「ヴィロナス王国にも輸入されているんだ。高価なものだから王城や富裕層しか持っていないが」
ブオォォォン、とミーシャが魔力を流してドライヤーを顔にあてる。目を閉じて前髪がひらひらしていた。
ドライヤー、か。髪に触れるくらいなら良い気もするけど、こうやってどんどん許していってしまうのかもと考えると微妙な気も。
「やった、ありがとうリト」
「何も言ってないけど。……でも、皆にもやるよ?」
ドライヤーしてもらえることがそんなに嬉しいのか、普段表情を出さないミーシャがにぱっと笑う。
まぁ、これからちゃんと意識して接触を控えるようにすれば大丈夫か。