勅令と考え -2-
「申し訳ありません。内容を伝えるのに少々憚られるものでして」
「そんな! どうされたんですか?」
するとフェンデルさんは胸元から一枚の封を取り出して僕に渡す。
「単刀直入に申し上げます。こちらは人智帝国ブリテンからの勅令書。つまり——」
封をひっくり返すと——封蝋。封蝋印は、人智帝国ブリテンの国家シンボル、王冠を被った人間。
「——リト・アーネル様に国王様からの出頭命令が出ています」
「…………へっ?」
思わず間抜けな声を出してしまう。
生命国宝の皆なら分かるけど僕に国王から直々の出頭命令?
「ご安心を。詳細は伺っていませんが、大量猟奇殺人事件についてアーネル様に尋ねたいことがあるだとか」
僕に聞きたいこと。正直全く予想がつかない。
「また内密に、とのことでアーネル様の関係者にもお伝えしないことを望まれています。日にちは明日、時刻は何時でも構わないようで、指定時刻に人運びリーボをご用意する、と」
「……内密、ですか」
内密なのも人目につかない希望も分からないけど、大量猟奇殺人の解決に僕も尽力できるかもしれない。
それなら願ったり叶ったりだ。
「分かりました。丁度このくらいの時間からなら何時でも大丈夫なんですが」
明日も聞き込みに行くだろうから、この時間帯からなら皆もいないはず。
「でしたら私からお伝えさせて頂きます。では明日、受付の方にお声掛け下さい」
フェンデルさんは綺麗なお辞儀をして背を向け、ドアノブに手をかける。
と、そこから動かず、再度振り返った。
「アーネル様、一つお願いがあるのですが」
「はい?」
厳格な表情が若干崩れ、悩んでいるようにも見えた表情。
「大量猟奇殺人事件の解決に尽力なさるとお聞きしました。もし犯人を捕らえた場合、法で裁いて欲しいのです」
「法で、ですか……?」
法で裁くのは普通だと思う。これはセシア達が何かしてしまわないように、ということだろうか。
「はい。人智帝国ブリテンを恐怖に震わせた犯人を、国王様は許さないでしょう。おそらく公開処刑し、首を晒されます。それを止めて頂きたいのです」
公開処刑や首晒しの文化は失われつつある。その文化が廃れていないなら、大量猟奇殺人の犯人は国王の一存で首を晒されるだろう。
「公開処刑や首晒しは残虐的です。民の安堵を望むのならお縄についたと報知すればいいだけのこと。公開処刑し、首を晒して民の怒りを解消するのは国民性を問われます」
僕は考える。
公開処刑し、首を晒して民がそれに「ざまあみろ!」と思ったり言葉にする。
悪いことをしたのは大量猟奇殺人犯だ。それは揺るがない事実だけど、その光景はより酷く愚かな気がする。
「分かり、ました。皆と相談してみます」
僕がそういうとフェンデルさんは頭を下げ、礼を言って部屋から立ち去った。