勅令と考え -1-
「じゃあ行ってくるわね」
イルフの馬乗りに貞操の危機を感じてから一時間。
時刻は十七時半過ぎで、外は街灯がちらほらと見える。
この宿は商売地区に位置しているのか様々な店が並ぶ中央通りにある。窓から中央通りを確認するとかなりの長さだ。
だけど人の通りが少ない。お店はまだ開いているけど明らかに活気がないのが目に見えた。
「うん、気をつけてね」
あれから二手に分かれてくれることになった。セシアとイルフ、リンとミーシャに分かれたみたいで、それぞれが部屋を出ていく。
僕はそれを見送った。
「さて」
これからどうしようか。本当なら聞き込みに参加したいけど女性と目が合ってしまったり、セシア達に出くわしたら怒られてしまう。
皆は僕がこういったことに参加するのを嫌がる。
何かあったら嫌だから、と理由は簡単。それなら心配する僕の身にもなってほしいけど彼女達は危機感が欠落している。
スキル解除するまでに、それは直してもらいたいな。
「何かできないかな」
僕が手伝えること。皆が心配してくれるのは嬉しいけど、何もできないのは嫌だ。
僕は考える。一人でできて街を回ることではなく、少しでも情報に繋がること。
「……こういう時に、街に出歩いて襲われてスキルで惚れさせて——なんて考えしか出てこないのが情けないな」
結局、それは自己犠牲だ。皆が一番嫌う。
僕はこのスキルが嫌いだ。人生を変えてしまうこのスキルを誰にも使いたくないし、今まで使ってしまった人達に謝りたい。
使いたくないけど……惚れさせればやめさせることも可能なんじゃ、と思ってしまう。
でもそれは同時に相手の人生に責任を持つということで。
「……うわ、どうしよう」
部屋にノックの音が響いた。リン達はいないから僕が出ないといけないけど、女性だったらよくない。
「はい?」
出ないわけにもいかず、性別を確認する為に扉の前で声をかける。
「お初にお目にかかります、アーネル様。私はこの宿の総支配人を務めさせて頂いているフェンデル・ロビニアスです。少々お時間よろしいでしょうか?」
声は五十路の男性といった印象。僕は扉を開ける。
「リト・アーネルです。あの……壊してしまった宿とかの話ですか?」
フェンデルさんは白髪をオールバックにして整えられた同色の髭が特徴的だ。老いを感じさせないスタイルと見た目に合っている燕尾服。所謂、イケオジと呼ばれるやつだ。
「いえ、また別件です。玄関で構いませんので、中に入らせて頂いても?」
「あ、はい! どうぞ」
招き入れると、本当に玄関で大丈夫なのか扉を閉めて玄関で立ち止まった。