滅びなかった世界線 -3-
「僕は恋慕スキルを解除したいと思ってる。猟奇殺人鬼がスキルを持ってるかもしれないって聞いて、早く捕まえて情報を知ってたら聞き出したいとも思う」
「だったら分かれて探した方が——」
言いかけたリンの裾をイルフが引っ張って、リンは口を噤んだ。
イルフ、ありがとう。
「被害者が出ないことも重要だよ。怖い、なんて誰も好きじゃないし、民からその感情を取り除きたいっていう気持ちもある」
真剣な話だということを感じ取って、皆ちゃんと聞いてくれている。
いつもこれくらい聞いてくれてたら喧嘩しないのにな。
「でもね。やっぱり怖いんだ」
僕は言葉を続ける。
「皆が強いのは知ってるよ。でも、それでも、皆に何かあったらどうしようって。怪我したら、帰ってこなかったら。もし、死んでしまったら。そんな気持ちでいっぱいなんだ」
これは僕の旅だ。勝手にスキルをかけておいて、スキルを解除したいからって皆についてきてもらっている。
そんな勝手な旅で、彼女達が死んでしまったら。
僕は一生後悔する。ただでさえ後悔ばかりで
彼女達に悪いことをしたのに。挙句に何かあったら僕はどう責任を取ればいい?
皆は自分を強いから大丈夫だと思ってるけど、そうじゃないんだ。
僕が心配だから。僕だけが心配だから、せめて二手に分かれてほしい。
「スキルを解除するのも大事だよ、被害者が出ないことにするのも大事だよ。でも、僕はそれ以上に皆のことが大事だ。大切なんだ。傷ついてほしくないし、危ない目に遭ってほしくない。だから——」
「ちょっと待って」
だから、お願いです、と。そう続けようとした言葉はミーシャに止められた。
「…………」
「はわ、は、わ、~~~~っ!」
「鼻血出たからティッシュ持ってくる」
「……」
正座して背筋をピンとさせながら胸の鎧に顔を隠すセシア。
顔を真っ赤にしながらはわはわしてるリン。
鼻を押さえてティッシュを探しに行くミーシャ。
「ん?」
ツンツン、と太腿を指で突かれて、イルフを見る。
イルフは僕に馬乗りした時と同じ表情をしていた。
「リト様! 今すぐ【ピーーーー】しましょう!?」
「うわああ!?」
飛び掛かってきて押し倒される。
セシアは変わらず正座して鎧に顔を隠している。
リンは頭から煙を出して腰が砕けたのかぺたんと座り込んでいる。
ミーシャはティッシュを取りに行っていない。
まさか、誰も助けてくれない?
「だ、誰か助けてええええ!!!」