イルフと寝泊まり -4-
「リト様のこと、本当に大好きなんですよ」
それはあまりにも単純で明快な告白だった。
「スキルだとか関係なく、今、私がリトさんのことを大好きなんです。本当は今すぐその唇を奪ってしまいたい。服を脱がしてしまいたい。リトさんの全てを感じ取りたい」
スキルが関係ない、なんて、僕は思えない。
その考えと発言はイルフの勢いによって止められた。
「今はしませんよ。私はリト様の想いを知っていますし、同時に彼女達の想いを知っています。リト様の想いは私にとって重要ですし、私と同じ感情を抱いているからこそ彼女達の想いも無碍に扱いたくありません」
初めて聞いたイルフの本音。
彼女達というのはセシア、リン、ミーシャのことだ。
「でも私だって我慢できない時があります。リト様に触れたくて触れたくて仕方がない。だから時にこうやって解消するんです、それくらいは許してくれますよね? 許してくれないと、私はこの感情の解消ができなくてもどかしいんです」
イルフが僕の手を離す。でも顔の距離は依然近いまま。
吐息がかかる距離。お互いが唇を突き出せば、あたってしまいそうなほど近い。
「私達の想いをスキルがかかっているからと思うのは結構です。だから私はスキルの解除方法を探します。スキルを解除して、この想いが本物であると伝えれば信用してもらえるでしょうから」
そんなはずは、無い。スキルを解除したら彼女達の僕に対する想いはなくなる。
僕に彼女達を引き寄せるほど魅力はない。あらゆる分野で才能がないし、強い男でもない。優しいかと言われると分からないし、取り柄もないのだから。
「覚えていてくださいね。スキルを解除したら、今まで溜めて、溜めて、溜めて、溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて——とても大きくなったもの、全部」
そんなもの全てお構いなしとでもいう表情でイルフの顔が横を過ぎる。
口元が耳に寄せられて、吐息を耳で感じた。
「全部ブチ撒けて、リト様のことぐちゃぐちゃにしちゃいますからね?」
そう言って離れていくイルフの表情。目が暗闇に慣れて、ようやく見える。
頬が緩み切り、欲望に満ちた表情。それを見て、僕は唾を呑む。
「だから今はそうやってあたふたしてください。それを見て欲を解消しないと、本当に手を出してしまいそうですから」
「……保証はできないよ」
精一杯反抗の言葉を返す。やられっぱなしじゃいけない、というよりこのまま反抗しなかったらいつかイルフに根負けしてしまう気がして。
「あら。それは手を出してもいいということですか?」
「ち、違う。僕は、強くなるから。そうしたら本当に抵抗する」
するとイルフは小さく笑った。
「分かりました。あ、それと謝ったらどうなっても知りませんからね」
イルフは頷いて僕の上から降りると、そう言い残して別のベッドへ移る。
それは僕が寝る前にする謝罪のことだ。イルフはそれが嫌いみたいで、謝ったら知りませんよと脅してくる。
だから僕は心の中で謝るのだ。
弱い僕を守らせてしまって、ごめん。僕の旅に付き合わせてしまって、ごめん。人生を狂わせてしまって、ごめん。
「おやすみ」
「おやすみなさい、リト様」
それから僕はしばらく眠れなかった。バクバクと脈打つ心臓を抑え、眠れたのは数時間後だった気がする。