情報
Ⅰ
「リト君、戻っておいで」
僕はささっと部屋に戻る。
廊下に女性研究員が歩いてたりしたら大変だった。幸い通らなかったけど。
「すまないね待たせてしまって」
「そんな、大丈夫です!」
僕が部屋に入ると、せっせとリン以外がソファを空ける。
と見せかけてソファに居座るミーシャが膝をぽんぽんと叩いて「おいで」とこちらを見てくるが、セシアに抱っこされてソファの後ろへ。
僕はソファに座る。
「さて、情報の件だけど他言無用でお願いするよ。良くない内容だから」
あ、質問に関しては何も教えてくれないのか。かなり気になる。
僕は他言無用に頷いて返すとロマニさんは真剣な表情に変わる。
「人智帝国ブリテンの猟奇殺人鬼を知っているかな」
それはとても悪い意味で有名な事件。
人智帝国ブリテンで被害者が出ている大量猟奇殺人事件。確かもう二十三人が犠牲になっていると聞いたような。
「被害者は十六歳から二十五歳までの若い男性。このことから猟奇殺人鬼は女性の可能性が高い」
「そ、それとなんの関係が……」
ロマニさんは人差し指を口に当てる。まだ先があるんだ。
「魔法などを使うとその場所には残穢が残るのは知ってるね」
残穢。魔法を使えない僕でも知っている。
魔法を使うと、魔法を使うのに必要な魔力の気が残る。それが残穢。
「しかし殺人現場に残穢は無かった。これが意味することは——」
「まさか魔法使わずに二十三人も殺したの?」
リンが言葉を遮って核心をつく。
女性が魔法を使わずに二十三人も殺すなんて、無茶な。
「その可能性が高いんだ。スキルの種類が分からない以上、彼女がスキル持ちの可能性がある」
もちろんとても低い確率だけどね、とロマニさんは付け足す。
「まさかそれ依頼で来てないわよね?」
ぎくっ、とロマニさんの肩が揺れた。
依頼。それは国や個人が騎士や冒険者など多くの人々に依頼ができるシステム。
こうしてほしいという依頼。それをやりますという受注。そこに金銭が発生する、冒険者の主な収入源。
「アンタねぇ……」
「ははっ、ははは! でも可能性はあるから! それにブリテンに恩も売れるしね!」
「その達成報酬、この前壊した宿に追加で払っておいてちょうだい」
がく、と肩を落とすロマニさん。しかしすぐに陽気な表情に戻った。
「その様子だと行くんだね」
人智帝国ブリテンの大量猟奇殺人といえば今、最も世間を騒がせている出来事だ。
それを解決できるのならしたいと思うし、スキル持ちの可能性があるなら接触したい。
情けない話だけどセシア達がいれば大丈夫。
何より、被害者は十六歳から二十五歳の男性。狙われるとしても僕だけで済む。
「皆、いい?」
僕は一人ずつ確認する。
心配そうに僕を見つめながら頷くセシア。
特に何も思って無さそうに頷くリン。
にこっと笑って了承の意を示すイルフ。
真顔でグーサインのミーシャ。
「分かった! 大量猟奇殺人を解決して無事に帰ってきてくれ!」
ロマニさんからの後押しももらい、立ち上がる。
「あ、それと部屋を四部屋借りるわね」
「え!? そ、それはちょっと!」
「誰のおかげで所長になれたと思ってるのよ。 いいわね?」
「……部屋は壊さないでね」
魔法国家マギアで宿は一度も壊したことないのに、知られているんだなぁ。
「じゃ。転移」
リンが呟くと魔法陣が足元に展開。光を放ち、僕達がテレポートする前、涙を流して手を振っているロマニさんが見えた。
ごめんなさい、ロマニさん。部屋は絶対壊しませんから。