問答 -5-
「——」
それは二つの眼帯だった。片方は白で、もう片方は黒。上の部分に赤い宝石がいくつか付いている、思い出深い宝物。
リトは、《《黒い》》眼帯を広げてユザミに付ける。
左目が隠せているだけで、不格好な付け方だ。ベルトは耳の上ではなく、被さるようになってしまっている。ただでさえ癖で跳ねている髪を巻き込んで、輪ができてしまっている。
「——」
そんなことがどうでもよくなるほど、ユザミはある衝動に駆られた。
白い眼帯を付ける為に若干俯いたリト。付け終わり、顔が上がった瞬間に、ユザミは一歩近づいた。
「————」
——唇が重なる。
本当はそんなことをするつもりはなかった。したいという気持ちはあっても、それを行動に移していいわけがなかった。
何故なら、自分より遥かに想い慕う女性達がいる。
ユザミは心で謝罪する。それと同時に、半ば勝手に許しを乞う。
「————幸せ」
誰かに伝えるものではなく、呟くように、嚙みしめるように、ユザミは言った。
その言葉が合図であるかのように、ユザミは伝えるべきことを伝える。
「セシアさん達が、人智帝国ブリテンの入口城門で待ってる」
「……っ」
「ばいばい、リト」
そう言うと、ユザミは背を向けて歩き出す。リトは前を向いて歩き出そうとしているユザミの背を霞んだ視界に捉え続けた。
十五歩程遠ざかって、ユザミが振り返る。その隣にはアシュテルゼン国王が立った。
ユザミは未だに動き出せないリトに向かって、大きく息を吸った。
「ありがとう、リト!! 前向きに生きる強さを教えてくれて、ありがとう!! いっぱいの幸せを教えてくれて、ありがとう!!」
そう言うユザミの表情はあまりにも幸せそうだ。今までで一番の表情で、何の曇りもない笑顔。
それを見て、リトの心に渦巻いていた様々な感情が、ようやく一つになった。
「——あ゛りがとう゛……ッ!!」
ただその一言で十分だった。
前を向いて歩いていく。想いから逃げず、受け止める。リトがそうして生きていくことを、ユザミが信じられる言葉。
ユザミは大粒の涙を流しながら、くしゃっと笑う。
————リトは背を向けて、走り出した。
——それぞれ誰もが、心に大きい想いを抱えている。
それに例外は無い。リトも、ユザミも——セシアも、リンも、イルフも、ミーシャも、心に大きい想いを抱えている。
正面から受け止める強さを持ち合わせておらず、逃げ出してしまいそうだった少年と、
悲惨な過去を過ごし、無慈悲なスキルを得て、犯したくない罪を犯し続けてしまった少女。
二人の人生と想いが重なり、前を向いて生きていく強さを得たように——人の未来は分からないことばかりだ。
それは、これから先も同じ。前を向く強さを得たとて、それは変わらない。
分からないことばかりの人生を——少年は生きていく。
果たして、それはどのような結末を迎えるのだろうか。




