世界の敵 -2-
「ご理解頂けていると思いますが、彼女はスキルを有している。殺人衝動や殺人行動は、全て彼女の意思ではありません」
「……それで?」
怒りを感じる声。しかしそれを言葉にしない。何故ならアシュテルゼン王は既に答えを僕に告げたことがあり、それを理解していることを知っているからだ。
「アシュテルゼン王は仰いましたね。スキルを持っていたとしても、心神喪失だったとしても、彼女を罰すると」
返事は無い。鋭い眼光がこちらを睨みつけている。
「それは、きっと正しい」
鋭い眼光が一瞬揺れる。
その言葉に嘘は無い。アシュテルゼン王の民を思う気持ちも、ユザミを処刑にしなければならない理由も理解している。
「ですが、貴方は仰った。救いたいというのなら遺族の赦しを乞うことだ、と」
アシュテルゼン王は一切顔色を変えない。まるで僕が慈悲に縋ることを知っていたかのように、彼は目を閉じた。
「本来与える必要のない慈悲を与えて下さった。貴方は、ユザミも民だと受け入れてくれている」
誰だって理解できないものの気持ちを考えることはできない。それは僕とセシア達が乖離したように、スキルを持っていない者は持っている者の気持ちを理解することはできない。
それは何も悪いことではない。寧ろ当然のことだ。
しかし、アシュテルゼン王は理解できないからこそ譲歩の線を引いた。
人を侵すこと。知恵を侵すこと。それは絶対にあってはならないとしながらも、民であるから理解しようとする。理解できないからこそ、赦される機会を与える。
「彼女の罪は重い。しかし、悪ではない。だから、覚悟を決めました」
深く息を吐き、深々と頭を下げる。
「僕は彼女を救う。遺族方の所在を、教えてください」
これは一つの分岐点だ。もう後戻りすることはできない。ユザミを救わないという選択肢は消え去り、救う為に生きる。
ただ、それでいい。
「……スキルとは、実に厄介なものだな」
アシュテルゼン王はそう言って背中に手を回すと、少し厚みのある書類をテーブルの上に置いた。
「遺族方の住所だ。持っていくといい」
用意されていたということは、僕が遺族方の住所を求めることを予想していたということ。アシュテルゼン王はどこまで見透かしていたのだろう。
「多くは語らない。覚悟を決めたのなら、やれるだけやってみなさい。その結果で、奴の処遇を決めよう」
「……ありがとう、ございます」
「……行きなさい」
アシュテルゼン王はもう話すことはないといった表情で、僕の目を見ることはなかった。
機会を与えたとしても、認めたわけではない。そう伝わってくる。
「失礼します」
僕は立ち上がり、再度深々と頭を下げて部屋の扉の前に向かう。立ち止まり、振り返って頭を下げ、部屋を後にした。




