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世界の敵 -1-



 Ⅰ



「ふぅ……」


 僕は心を落ち着かせる為に一息吐いて、胸を撫でおろす。


 場所は人智帝国ブリテン王城の、前にアシュテルゼンに謁見えっけんで訪れた部屋の扉の前。時刻は二十一時手前。


 フェンデルさんに頼んだアシュテルゼン王との面会は手紙をお願いした次の日に設けられた。その関係で時間は遅いが、日にちは早ければ早いほど良い。


 帰ったらユザミに謝らないとな。明日も一緒に街を散策する約束をしていたけど、おそらく守れない。


 ユザミが処刑を免れる条件として、遺族の赦免しゃめんが必要だ。それは前にアシュテルゼン王が僕に与えた慈悲の言葉で確約されている。王ならば一度口にしたことを反故ほごにしないはずだ。


 今日アシュテルゼン王と面会を希望したのは他でもない。遺族の住所を教えてもらう為。


「……よし」


 この先どうなるかなんて分からない。もしかしたらアシュテルゼン王から遺族の住所を聞き出せないかもしれないし、遺族の赦免を得られないかもしれない。


 その最中、多くの人から恨みを買うだろう。最悪の場合、恨みの果てに襲撃を受ける可能性だってある。


 それら全て、覚悟の上。僕はアシュテルゼン王の待つ部屋の扉をノックした。


「入れ」


 前とは違って威厳のある声に威圧が含められている。僕は扉を開いて入室する。


「失礼します」


「かけなさい」


 無駄な口上こうじょうは無い。それは早速本題を聞こうという意思表示で、僕は顎で促された通りに対面する椅子に座る。


 テーブルの上には二つのカップが置いてあり、アシュテルゼン王の前に一つ、僕の前に一つ。アシュテルゼン王は一度カップに口をつけると、それを合図とするように口を開く。


「残りの猶予は約一週間。君は大量猟奇殺人犯と一週間を過ごしたわけだが——状況を聞こう」


 やはりこの人は王だ。大量猟奇殺人犯の処刑を確定としていても、それまでの過程をおろそかにしない。


 僕は一つずつ話していくことにした。


「大量猟奇殺人犯の名前はユザミ・テトライア」


 名前を明かした僕に怪訝けげんそうな表情をあらわにするアシュテルゼン王。


「彼女は約四年間の間、義兄の虐待を受けたことによって心を壊しました。特定の性別と年齢層の人物の顔が義兄に見え、今も怯えて生きています」


 僕は続ける。


「殺人の動機にそれらは関係ありません。不確定ではありますが、彼女は目に映った人物に無条件で殺人衝動を抱きます」


 不確定というのは年齢性別に特定の条件がない可能性があるから。義兄の顔に映る人物を優先して殺していたから条件があるように思えていたが、もしかしたら女性や子供と老人にも殺人衝動を抱くかもしれない。


 無暗に殺人衝動を抱くか検証するわけにもいかず、何より時間が少なすぎた。ただ、それは重要ではない。



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