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37. 人型機動兵器?

 翌朝、ロッソのよく見えるカフェテラスで朝食をとった一行――――。


「ねぇ、今スキルランクいくつ?」


 オディールは食後のお茶をすすりながらミラーナに聞いた。


「え? 十五……かな?」


「へっ!? じゅ、十五ってSランク冒険者を超えてますよ!」


 横で聞いていたヴォルフラムはビックリして目をまん丸にする。


「だって、毎日最大出力の魔法打ちまくってるんだもの。そのくらい行くわ」


 ミラーナはちょっと得意げにヴォルフラムを見る。


 インフラの土木工事はほぼすべてミラーナがやってきたのだ。その行使した魔法量は世界でもトップクラスになっている。ただ、敵を倒しているわけではないのでレベルは低いままだが。


「じゃあ、今日はゴーレム作ろうよ、ゴーレム!」


 オディールは好奇心で目をキラキラと輝かせる。


「ふふっ、ゴーレムってこれの事かしら?」


 ミラーナはポケットから丸い石ころを出してテーブルに置いた。


 するとその丸みを帯びた石ころはちょこちょこと動き出し、ミラーナの手の上によじ登っていく。


「えっ!?」「はぁ!?」


「ハムスターゴーレムの『ハム』ちゃんよ。可愛いでしょ?」


 ミラーナは腕を登るハムを見せながらニコッと笑う。クリっとした目がついていて、黄金色に光っている。


「す、すごいね。もうやってたんだ」


「だって、オディがハムスターも作れるって言うから練習してたのよ」


 ミラーナはオディールの腕にハムを乗せた。


「うわぁ……、良くできてる……」


 石でできたハムはクリっとした目を輝かせ、小首をかしげてオディールを見上げている。


 オディールはハムを手のひらに乗せると、すべすべしたハムの頭をなで、嬉しそうに微笑んだ。


「ここまでできてたらワーカーゴーレムもできるね」


「ワーカーゴーレム?」


 首をかしげるミラーナ。


「こういうのだよ、農作業や力仕事をやってもらおうかと思って」


 オディールは設計図を出して広げた。


 そこにはいかつい装甲で異彩を放つ人型機動兵器モビル・アーツのスケッチや、手足のパーツの概要が細かく書かれている。


「……。何……? これ……?」


 ミラーナは眉をひそめて渋い顔をする。


「モビル・アーツだよ。ほらこの(かぶと)のような装飾、カッコいいでしょ?」


「……。もっと可愛いのがいいわ」


「えっ。いや、これにはロマンが……」


「なんかこう丸っこいのがいいの」


 ミラーナは口をとがらせて頑固に譲らない。


 いや……、えぇっ。


 オディールは凍り付く。夢の等身大モビル・アーツの計画が根底から否定されてしまったのだ。堂々とした巨大なブーツから伸びる精悍な脚、無機質な胸部に強靭な肩。これらが生物のように力強く大地を駆け抜ける、そんな情景を思い描いていたオディールは言葉を失った。


「こういうのがいいのよ……」


 ミラーナはそう言いながら紙に卵のような図形をかいて手足を生やし、丸い目玉を描いた。


「卵……」


 オディールは言葉に詰まる。人型機動兵器モビル・アーツを作るはずが、このままだとハンプティダンプティみたいなファンタジーな妖精になってしまう。


「きっとこういう可愛い子の方が人気出るわよ」


 ニッコリと笑いながらさらに違うバージョンの卵を描いていくミラーナ。


 その嬉しそうな姿にオディールは何も言えなくなってしまう。やはり異世界の少女にモビル・アーツの魅力なんてわかるはずもなかったのだ。


 すっかりしょげ返ってしまったオディールを見たミラーナは、焦った様子で言う。


「あ、そのうちにこのモビル何とかも作るわよ。でも、最初は卵で行きましょうよ」


 重いため息と共にオディールは静かにうなずいた。



       ◇



 その後二人で、熱い議論を交わしながら、ときに微笑みを交えて、卵型ゴーレムの設計をじっくりと詰め上げていった。


 スピードを求めれば車輪が必要だが、車輪だと階段は登れない。となると脚と車輪のハイブリッドが答えだろうが、卵の下部に両方はなかなかうまく収まらない。


「二輪は止めて一輪にしようか?」


 オディールはシュッシュと卵の下の方にタイヤを埋め込んだ絵を描いた。


「えっ! 倒れないかしら?」


「一輪車に乗ってる人もいるじゃん? そこは賢く頑張ってもらって……。それで脚はこう!」


 そう言いながら長い腕を四本描いた。


「え? 腕……なの?」


「普段は車輪で動いて、階段などは下側の腕でゴリラみたいに歩くんだよ。どう?」


 そう言いながら、可愛いクリっとした目を描き加えるオディール。


 その、ぬいぐるみのような愛らしさにミラーナは嬉しそうに微笑む。


「あら可愛い! モビル何とかよりこっちの方がずっといいわよ」


「そ、そうかもね……」


 オディールは死んだ魚のような目で力なく答えた。


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