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25. ダイナミック農業

「ただいまー!」


 オディールが家に足を踏み入れたとたん、パンの焼ける香ばしい香りが彼女を包み込んだ。


「おかえり、丁度朝食ができたところよ」


 ニコッと輝く笑顔でミラーナが振り向き、オディール達を迎える。


 オディールはテッテッテとミラーナに近づくと、ピタッとその背中に顔をうずめて言った。


「あ、ありがとう……」


「あらあら、どうしたの?」


 ミラーナは温かな表情で、静かに笑う。


「いや、感謝をね、伝えておかないとって」


「ふふっ、ありがと。でも、私もこんな素敵なところに連れ出してくれて感謝してるのよ?」


 ミラーナはオディールの手をそっと、愛おしく取った。


「感謝だなんてそんな……」


 オディールは気恥ずかしく顔を伏せる。


 ミラーナはそんな彼女の可愛らしい姿に微笑み、金髪を優しく撫でた。


「トーストが冷めちゃうわ、早く食べましょ?」


 オディールのほほにチュッと軽くキスすると、ミラーナは微笑んでテーブルの方向へと足を向ける。


 え……?


 ふんわりと香る甘く優しいミラーナの匂いの中、オディールは驚いて固まってしまう。


 どういう意味があるのか分かりかね、オディールはキスされたところをそっとなでた。



        ◇



 食後に一行は耕作予定地へと移動した。聖気に満ちた畑なら十数万人分の食料を作れる広さになっている。


 街を作るうえで食糧の自給自足は基本である。畑を開墾(かいこん)して麦や野菜や果物を作ることはまずやらねばならないハードルだった。


 花畑を開墾していくわけであるが、手段はミラーナの土魔法しかない。広大な畑をミラーナに掘り起こし続けてもらうのだ。


「えーー? ここ全部?」


 広大な丘陵地を見渡し、さすがにミラーナは面食らう。


「い、一回の魔法でどれくらい耕せるかちょっとやってみて。それ見て計画を立てよう」


 オディールは冷汗を浮かべながら言った。


 ミラーナはジト目でオディールを見ていたが、ふぅと大きく息をつくと魔法手袋をつける。


「じゃあ行くわよ?」


 背筋をピンと伸ばし、地面に両手を向けると目を閉じて呪文を唱え始める。それに合わせてオディールは魔力を全開で流した。


 ミラーナの手から放たれる黄金色に輝く微粒子の群れが大きなうねりを伴いながら地面に吸い込まれて行く。


 直後、ズン! と、地響きが起こり、十メートル四方くらいの花畑が土ぼこりを上げながら、一気にもこもこの地面に変わった。


「おぉ、すごい!」


「ふぅ……、どうかしら?」


 ミラーナはドヤ顔でオディールを見た。


「もう最高だよ!」


 オディールはミラーナの手をギュッと握り、満面の笑みを浮かべる。一瞬でそこそこの広さの畑が出来上がったのだ。


「この調子で耕していくぞーー!」


 オディールが有頂天で腕を突き上げると、レヴィアが背中をポンポンと叩く。


「ちょっと待った、これを見てみぃ」


 畑の中を指さした。そこにはすき込まれた花が顔をのぞかせている。


 え?


「このままだと花がまた生えてきてしまうぞ?」


「そ、それは困るな……」


 オディールが戸惑っていると、レヴィアがドヤ顔で自分の胸をポンと叩いた。


「そこで我の出番となる訳じゃ」


 ニヤッと笑った直後、ボン! と、爆発音がしてドラゴンの巨体が宙に現れる。


 いきなり現れた巨大なドラゴンに圧倒される一行をしり目に、レヴィアはバサッバサッと巨大な翼をはばたかせた。


 辺りを気持ちよさそうに旋回すると、おもむろに隣の丘めがけて大きな口をパカッと開けて巨大な牙を光らせる。


 刹那、オレンジ色に輝く鮮烈なプラズマジェットが花畑を覆い、丘は激しい炎を噴き上げながらあっという間に火の海となった。


「うひょー!」「あららら」「あわわわわ」


 その豪快な野焼きに一行は圧倒される。いまだかつてこんなダイナミックな農業があっただろうか?


 レヴィアは満足そうにゆったりと翼をはばたかせながら旋回し、今度は一行に向かってやってくる。


「お主らーー! どけ、どけぃ! 巻き込むぞ!」


 重低音の声でそう叫んだレヴィアは口をパカッと開けた。


「ちょ、ちょっと、待ってよぉ!!」「きゃぁ!」「ひぃぃぃ!」


 オディール達は慌てて駆け出す。一億度のプラズマジェットを浴びたら一瞬で炭になってしまう。


 ガハハハハ!


 楽しそうな重低音の笑い声が響いた直後、ドラゴンブレスが炸裂し、オディール達がいたあたりもあっという間に火の海に沈んだ。


「あちちち! もうっ!」


 激しい熱気が一行を包み、オディールたちは必死に逃げる。


 こうして数キロ範囲の耕作予定地はあっという間に野焼きされたのだった。



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