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11. ドラゴンの里

「ドラゴンがいるらしいよ! 知ってた!?」


 オディールは色めき立ってミラーナに聞く。


「そんなのメイドだった私に聞かないでよ。でも……、いるなら私も見てみたいわ」


 ミラーナも両手を組むと宙を見あげた。やはりファンタジーな生き物にはロマンがある。


「本物なの? 大きい?」


 オディールは食いつくようにヴォルフラムに聞いた。


「偽物のドラゴンなんていないですよ。大きさはそうですね……翼の長さが三十メートルくらいですかね?」


 オディールは目をキラキラとさせ、見開いたまま固まる。


「三十メートル……。行こう……」


「え?」


「ドラゴンだよ! 見に行くよ!」


「えーー! サーモンとか食べに行きましょうよぉ」


 ヴォルフラムは口をとがらせる。子供の頃にさんざん見たドラゴンなんて見たくなかったのだ。


「いいの! ドラゴンが先! どうやって行くの?」


 オディールはヴォルフラムの太い腕をぎゅっと握り、決意のみなぎる目で言った。


「わ、分かりましたよぉ。馬車で三日くらいですね。山道きついから覚悟しててくださいよ」


 ヴォルフラムは深くため息をつくとリンゴジュースを(あお)る。


「くふふふ、ドラゴン……」


 オディールは両手を組んで(まぶた)を閉ざし、まだ見ぬファンタジー生物を夢見ながら、不気味な笑い声を漏らしていた。



    ◇



 翌日、オディールは市場で食料や日用品などを手当たり次第に買い込んで、公爵家の宝物庫からくすねてきたマジックバッグに詰め込んでいった。


「オディ、ちょっと買いすぎじゃない?」


 ミラーナはあきれ顔で言うが、オディールは意に介さない。


「これから何もないド田舎へ行くんだよ? 何が必要になるかわかんないじゃない。あ、毛布とかもいるかもしれないね……」


 と、さらに買い物を加速させていく。


 ヴォルフラムは惜しげもなく金貨を次々と使っていくオディールに唖然としながらも、言いつけ通り護衛として背筋を伸ばしながら腕を組み、オディールの後ろで目を光らせていた。


 珍しいものだらけであっち行ったりこっち行ったり、オディールはキョロキョロしながらせわしなく市場の中を巡っていたが、さすがに疲れ、隅っこでへたり込む。


「あー、疲れちゃった……」


「姐さん、そろそろ馬車の時間ですよ?」


 ヴォルフラムはオディールの顔をのぞきこみながら心配する。


「足が棒のようだよ……。ヴォル、運んでって」


 オディールは冗談で両手をヴォルフラムの方に伸ばした。


「しょうがないですねぇ」


 ヴォルフラムはそんなオディールの脇の下に手を入れて、ヒョイっと高々と持ち上げるとそのまま肩車にした。


 うへぇ!


 まさかこんなに軽々と持ち上げられると思っていなかったオディールは焦り、慌ててワンピースのすそを押さえる。


「暴れないでくださいね、じゃ、行きましょう」


 ヴォルフラムは事も無げにそう言うと、ノッシノッシと馬車乗り場へと歩き出す。


 ウヒョー!


 歓喜の声を上げるオディール。二メートルはあろうかというヴォルフラムの上からの景色は格別で、まるで巨人になったようだった。


「重く……ないの?」


 ミラーナが不思議そうに聞く。


「昔はこうやってよく妹と遊んでいたんですよ」


 ヴォルフラムはニコッと笑うと、幸せそうに微笑んだ。


 イェーイ!


 オディールはヴォルフラムの上で高々と手を突き上げて上機嫌だった。


 

      ◇



 三日ほど馬車に揺られながら、山脈を越えていく一行。


「ドーラゴン、ドーラゴン、まーってろよー」


 オディールは調子っぱずれの歌を口ずさみながら馬車に揺られ、ミラーナとヴォルフラムは顔を見合わせ苦笑する。


 晴天続きで暑い日が続いたが、オディールはスキルで雲を出し、日陰の中をのどかに進んで行った。


 乗っているだけでは暇なので、ミラーナとヴォルフラムには魔法の練習をしてもらう。馬車の最後尾に座ってもらい、田舎道に魔法をポンポンと放ってもらうのだ。敵を倒すわけではないのでレベルは上がらないがスキルランクは上がっていく。


 ヴォルフラムはいくら魔法を放っても尽きないオディールの無限魔力の凄まじさに唖然としていたが、そのおかげで延々と魔法を放ち続けられるので一生懸命練習を繰り返した。


 額に汗しながら絶え間なく風魔法を撃ち続けるヴォルフラムの真面目さに、オディールは感心する。このまっすぐで真摯な若者に出会えたことは幸運と言えるだろう。オディールは穏やかな笑みを浮かべ、この素晴らしい出会いに深く感謝した。



 最終日になると馬車は峠を越え、下り坂を進んで行く。


 みんなが魔法の練習にいい加減疲れ切ったころ、ついにドラゴンの村、オランチャについたのだった。



      ◇



 山脈を越えた開けた平野には畑が広がり、ポツポツと家が建っている。しばらく行くと古びた鐘楼が建つ広場があり、さびれた商店が一軒開いていた。やる気のないおばあさんが店先で座っている。


 おばあさんは馬車から降りてくるヴォルフラムを見ると、嬉しそうに声をかける。


「おやヴォル坊! どうしたんじゃ?」


「お久しぶりです。この方たちがドラゴンを見たいんだそうです」


「はぁ? あんなものを見にわざわざ来たんかね? そりゃ、ご苦労なこったな。カッカッカ」


 オディールはペコリと頭を下げ、ニコッと笑いながら聞く。


「こんにちは。どの辺りに現れるんですか?」


「さっき、あの辺を飛んでおったよ」


 そう言いながら山脈の方を指さした。


「えっ! さっきですか!?」


 オディールはミラーナと顔を合わせ、残念そうに肩を落とした。


「まぁ、そのうちにまた通るじゃろう。カッカッカ」


 おばあさんは楽しそうに笑った。


 ヴォルフラムは小さな肉まんのようなお団子を一つ買って、ほお張りながら聞く。


「村のみんなは元気ですか?」


「んー、もうジジババばかりになってどんどん死んでっちまうからなぁ……。それに最近は雨が降らなくなってのう。ちょっと大変なんじゃ」


 おばあさんは沈んだ顔をしてうなだれる。


「え? 干ばつ……ですか?」


 ヴォルフラムは青い顔をして答えた。この村の産業は農業しかない。過去、干ばつが襲った時は多くの家が飢え、子供を街へ売ったりして多くの悲劇が生まれていたのだった。


「畑も元気なかったじゃろ?」


「そうですね、確かに……」


 ヴォルフラムはそう言いながらオディールを見る。その子リスのようなクリっとした目には哀願の色が浮かんでいた。


「ふふーん、一肌脱いじゃおうか?」


 まさに自分のためにあるような格好の舞台に、オディールはドヤ顔で提案する。


「お、お願いします!」


 深々と頭を下げるヴォルフラムの姿には、生まれ故郷を救いたいという純粋な想いがこもっていた。


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