表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

その3 リアルな絵空ごと

 2009年11月28日


「つまり、春恵はあの時の引っ越しの日に未来からやって来たってのか?」

「…うん」


 こんなこと言うこと自体恥ずかしい。でも言わなきゃタイムリミットが…

 切羽詰まった立場の私がダメ元で始めた事情説明。

 当然、信ちゃんが鵜呑みにするはずもない。

 でも不思議なのは、普通なら相手にもしてくれないこんな話を、きちんと反論をする形で対応してくれたこと。


「それはおかしい。春恵と俺はそれよりもっと前から会っている。通勤時にこの道で何度も挨拶を交わしてるじゃないか」

「だからそれは…20歳の時の私で…」

「何言ってんだ?今だって20歳じゃないか」

 確かにそう。今の姿形は20歳の私。今身に付けてる洋服も、この流行っているデニムのレギンス。

 なつかしい感もあるけど、今はそれどころじゃない。


「いいえ。私はすでに34年の人生を経験してきた女なの。信じられないでしょうけど」

 信一郎は頭をかきながら顔を曇らせる。

「う~ん…今いちわかんないな…じゃあ春恵が二人いるってことか?」

「そうじゃないの。つまり、今から14年後の34歳になった私が、今20歳の私の体を借りてここにいるの」

「おかしな話だな。自分が自分に乗り移ってるなんて」

「オバケみたいな言い方しないで。信ちゃんは私が頭おかしいと思ってるんでしょ?」

「そうじゃないけど…あの…悪く思うなよ。ハッキリ言うと、春恵の話は信用に値するものではないと思ってる」

 あぁやっぱりと肩を落とす春恵。

「そうよね…わかるわ。私も信ちゃんと同じ立場ならそう思うもの。でも本当なんだもん…こうとしか言えないし」

「ん~ん……」

 考え込んでしまった信一郎。

「いいの。信じてくれなくても。言った始めから仕方のないことだってわかってる」

「俺もさぁ、小説やコミックの世界ならそんな空想的なストーリーも大好きな方なんだけどさ…」

「だからもういいよ。この話はもうおしまい」

 春恵は諦めた。所詮理解してもらえることなどあり得ない。

「ごめんね。おかしなこと言って。こんな私なんかもう忘れて…どうかお願い。そして新しい彼女と幸せになってね」

「は?何だよ新しい彼女って。俺は浮気なんかしてないぞ」

「違うの。もうすぐ信ちゃんの前に現れる彼女のことを言ってるの」

「なんだそりゃ?」

「あ、ごめん。また混乱すること言っちゃった。これでわかったでしょ。私ってこんな女なの。私とこのまま付き合っても信ちゃんが疲れるだけ。もう…終わりにしましょう」

「春恵、ひょっとしたらお前…」

「え?なに?」

「俺と別れる口実を作ろうとして、わざと精神障害者のふりをしてるんじゃないのか?」

 春恵は内心驚いた。信一郎がそこまで深読みをするなんて、思ってもみなかったからだ。

 真実は違うけれど、別れる口実になるならば、精神異常者と思われても良いと覚悟していた春恵。

 なのに、精神障害者の“ふり”をしてると言われるなんて…


「なぜウソをついてまで俺と別れたい?俺のどこがいけない?遠慮なく言ってくれ。悪いところは直すから…」

「だから違うってば!!」


 もう春恵は意地を通すしかなかった。このまま突っ走るしか…

「さっきも言ったでしょ。私は14年先までの未来を知ってる。信ちゃんには間もなく新しい彼女が現れるの!」

「たとえ現れたって、俺はそんな女と付き合う気はないね」

「馬鹿なこと言わないで!信ちゃんの奥さんになる人だよ!」

「!!!!」

「私なんかより、ずっとずっと大事な人になるんだよ。だから私にこれ以上関わらないで!」


 みるみるうちに春恵の目から熱いものが込み上げてきた。

 辛い…苦しい……せつない。やっぱり来るんじゃなかった…

 そんな思いと大きな反省。

 自分勝手な一途な片思いだけで、この時代に強い願望を持っちゃいけなかったんだと。

 自分が過去に関わることで、信一郎の将来も変えてしまうかもしれないという恐怖が、春恵の心を大きく揺さぶった。

 まるで、ファンタジー小説のような絵空ごとが、実際自分の身に起こると、ただ興味深いだけでは済む問題じゃない。


 この世界に足を踏み入れた晩、私の夢に現れた“発光帯”の言うことに、もっと耳を傾けていれば良かったと、今更ながら悔やむ春恵であった。


                      (続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ