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その1 はじまりはエピローグ

 2009年11月28日 


 楽しくて幸せな時間はついに終わりを告げようとしていた。

 いずれこうなると知っていながら、選んでしまった選択肢。

 後悔ばかりが先に立つ。ただそれだけ。

 ほんのひとときでも幸せを感じたことに満足するのはドラマの世界。

 せつない悲恋話のきれいごとな幕切れなんて、現実にはあり得ない。

 

 ───こんなに辛くて苦しいなら、前の世界のままで良かった…

 ───もう一度あのときに戻ってやり直したいなんて、都合のいいことを考えた私への罰?


 小林春恵は覚悟を決めて、最後の言葉を切り出した。

「ごめんね信ちゃん、今までありがとう。大好きだったよ…」


 涙をこらえて話したケータイでの通話。 

 自分の意気地なしさを痛感する春恵。

 やっぱりこうしか言えなかった。


 別れるためには嫌われなきゃならないのに…

 そうするつもりだったのに…

 そんなことは充分わかってたはずなのに…


 春恵は自己嫌悪に陥っていた。

 本当に不甲斐ない自分。

 せめて通話をここで切ってしまえばいいものを、未練タラタラ切らずにそのままケータイを耳に当てている。

 心の底ではまだ、恋人・真原信一郎まはらしんいちろうの声を求めているのだ。

 これでは最後の言葉になるはずはない。


「春恵、君は一体何を隠してるんだ?そんなの理由にならないじゃないか」

 信一郎という男は、普段から物静かな性格で、感情的になることはまずない。

 だからといって、クールなわけでもなく、言葉少なげではあるけれど、しっかりと気持ちを伝えてくれる人物。

 春恵が彼に惹かれた理由のひとつでもある。それと優しく暖かい包容力。

 

「信ちゃん、遠距離恋愛なんて…無理に決まってるよ」


 春恵が信一郎と別れるために考えたウソの理由。それが遠距離恋愛。

 お互いの心にすれ違いが生じるからだとか、遠くの恋人より近くの友人が優先になるだとか、寂しさをぬぐい切れないだとか、考え得ることをいくら並べて説明しようとも、冷静で勘のいい信一郎には通用しないことだった。


「春恵はもう二十歳だろ。もう子供じゃないんだからさ、何も家族と一緒に引っ越さなくてもいいんじゃないか?」

「・・・・」

「俺と同棲しないか?それなら春恵だって、今のバイトもやめなくていいだろ?」


 このままじゃ、信一郎に押し切られる。にわかに作ったウソは通じない。

 そう感じた春恵に残された道はもうひとつしかなかった。


 それは────正直に事実を言うこと。

 だが、それを話したところで、尚更理解してもらえるとは思えない。

 そこにはまさしく信じがたい事実が存在する。

 そこまでウソをつくとは、人をおちょくるにも程がある!と言われるのがオチ。

 でも春恵は最後の手段として、あえて真の事実を話す決断をした。


 ───ウソだと言われてもいい。ののしられてもいい。

 ───それで本当に嫌われたなら、きれいさっぱりに別れることができるんだもの…


「信ちゃん、私…信ちゃんと同棲はできません」

「なんで?」

「さっき信ちゃんの言ったとおりなの。私、信ちゃんに隠し事してました。ずっと今まで…」

「・・・・・」

 ピクッと片方のまゆが上がった信一郎。

 だがそんな表情の変化など、通話先の春恵が気づくはずもない。

 彼はただ黙って春恵の言葉の続きを待った。


「信ちゃんと私ってね・・・本当は恋人になる運命じゃなかったの」

「……は?」

「私は未来を知ってる。本来なら出会うことのなかった私たちが、こうして付き合うことは、とても危険で許されないことなの…」


 冷静沈着な信一郎ではあるが、さすがにあっけにとられて言葉も出なかった。

 というより、意味が全く呑み込めないというのが今の現状であった。

 ただ、彼が瞬時に思ったことがひとつ。

 春恵を心療内科に連れて行った方がいいんだろうかと。。


                  (続く)

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