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35.「検証」


 戦いを終え、いつも通り周囲の探索を行った数分後、世界の『変異』が始まった。

 砂漠の世界は他の世界よりも長く滞在したが別段感慨などはなく、変わりゆく光景に俺は警戒心を募らせていた。

 それは俺達の眼前に広がる世界が、いつもとは様子が違って見えたからだ。

 なにもない殺風景な砂漠から次に変わった世界は、全面石造り・・・天井まできっちりと灰色のレンガで囲われたの長い通路のような構造の世界で、これまでの世界と大きく異なり閉鎖的で、人工的な光景は違和感を感じざるを得ない。

 不自然なまでに整然と並べられ、壁にいつくも掛けられているモノクロの松明がゆらゆらと揺らめきながら通路の奥の景色を映しているが、その奥は伺いしれないほどに深く、黒い闇が広がっていた。



「・・・トンネル?いや、洞窟、か?」


「いや、これは恐らく迷宮(ダンジョン)だ」



 迷宮とは、人工的に創られた廃坑や洞窟、トンネルなどに魔物やモンスターが住み着き、その構造物内の魔素が異常に高くなると発生する一種の異常現象。

 迷宮となった構造物内は一気に構造を複雑化させ、人を欺くような罠や魔物などを生み出すようになる。

 だが、同時に迷宮内で発掘される魔素の結晶・・・「魔晶」は高値で取引される。

 その他にも迷宮内で存在している宝箱などからは、宝石や財宝、はたまたとんでもない名剣や魔道具が見つかることもあるらしく、冒険者たちは一攫千金のロマンを求め、迷宮の攻略に乗り出す者が多い。

 レクスさん達があの魔剣を見つけたのも迷宮の攻略時だったというのもあるが・・・俺としてはかなり恐ろしい場所、という印象しかない。



「じゃあ今度は迷宮の世界、ってことになるのか・・・」


「そうなるが・・・この世界には魔物は居ないからな。気を付けなければならないのは、精々トラップぐらいなものだ」


「なるほど・・・」



 魔獣以外に存在していないこの世界にトラップなんてモノがあることに驚きだが、確かに魔物の徘徊していない迷宮というのは恐ろしさ半減・・・どころではないような気がする、が実際はそれほど甘くはなかった。



「うぉぉおおおおぉッ!!?」



 数歩歩けば壁から、床から、天井から。

 槍、矢、炎、落とし穴、落石、回転する床やら。

 出るわ出るわ、トラップの数々。

 俺の「空間把握能力(笑)」を持ってしても・・・っていうか、これ殆ど戦闘中限定だし・・・トラップを察知することは全く出来ず、ほぼほぼ踏み抜いてトラップの位置を確認しているような始末だ。

 因みにリンも以前に俺と同じ経験を繰り返し、感覚的にトラップの位置を避けられるようになっているらしく、全くトラップに掛かっている様子はないが、手を繋いでいる影響で俺の巻き添えになって一緒にトラップに掛かっている。



「り、リンさん?トラップの位置、教えてくれても―――」


「ん・・・。せっかくだからな。これも稽古の内だ」



 と、スパルタなのか優しいのか分からない師匠(リン)のお言葉を頂き。

 俺は、こうして罠の対処と探知を物理的に出来るようになっていったのであった。



 ・・・



 そうして、この世界の探索も順調・・・順調?に進み、半ば作業的に魔獣たちを倒した後、本格的にこの世界の調査を開始することにした。

 これまでは適当に仮設を立て、それの立証や確立に時間を費やしてきたが・・・これからは真実の究明を行っていかなければならない。

 それらの仮説の検証にはリンの協力が不可欠であり、以前のように俺一人が思考を巡らせるだけでは駄目なのだ。

 以前からもリンとの情報共有はしきりに行ってきたが、俺が出来るのは所詮考えることだけで、何の能力も持たない俺にはここからは何もしてやることが出来ない。



「・・・そんなことはない」



 俺の気持ちを察し、リンはそう慰めてくれた時、改めて思った。



「―――ありがとうな」



 俺はこの子の助けになってやりたい。

 この監獄(せかい)から羽ばたかせてやりたい。

 だからこそ、俺も出来る限りのことはしよう。

 そう思った。


 まずその足掛かりとして―――リンの能力の検証から始めることにした。



「―――今、リンができることを教えて欲しい」



 以前にも聞いた通り、リンは『次元』と『時空』を操り、『次元転移(シフト)』による瞬間移動、というのはもう知っているが他になにか出来るかどうかで、奴らが異常にリンを警戒している理由が分かるかもしれない。



「ん、そうだな・・・前話した時も言ったと思うが、今の私に出来ることはかなり制限されてしまっている。今私に出来ることは一、二次元間の『次元転移(シフト)』ぐらい、と言いたいところだが―――」



 リンは少し悩みながらも、続けて口を開いた。



「少し無茶をするならば、三次元まではなんとかなるだろう・・・が、それには場所やタイミングが重要になるんだ」


「場所やタイミング?」


「あぁ」



 例えば、この場で三次元間の『次元転移(シフト)』を行っても、どこに出るかは完全にランダムであること。

 そして、移動先はこの剣の中の世界に限定されること。


 要するに―――



「―――三次元間の『次元転移(シフト)』って・・・自分でランダムに『変異』を引き起こすってことなのか?」


「まぁ、そうなるな」


「・・・なるほどな」



 これは―――もしかしなくても殆ど答えのようなものじゃないだろうか?


 魔獣の出現条件、リンの能力、これまでの考察。

 それらから導き出される答え。



(・・・何処かへの『変異』の阻止、か)



 だがこれは完璧な回答ではなければ、まだ行動に移れるほどの確証もないのだ。

 とは言え、この状況で100%の回答を得るのは不可能だろうが・・・。



(もう少し、もう少しだ・・・!)



 俺達に必要なのは確実な答えなどではなく、決断に到れる程の仮説だ。

 どちらも今の俺達は持ち合わせていないものであるが、それはもう俺達の眼前に見えているのかもしれない。



「・・・どう、だ?役に、立てそうか?」


「―――あぁ。これなら本当に後もう少しでどうにか出来るかもしれない」



 そうやって思案している俺をリンは、心配そうに見上げていたが、そんなリンを元気づけるように俺はリンの頭を撫でて、少しカッコ付けながらニヤリと笑いながらそう言うと、リンは嬉しそうにへにゃりと笑った。



「そう、か。ならもう少し、頑張らないとな」



 目前に迫った希望に胸を躍らせながら、俺達は世界の変異を待つのであった。



 ・・・



「・・・来たか」



 そうして訪れた4度目の『変異』。

 未だに見慣れない慣れない不気味な光景と、慣れてしまったリンのハグを受けながら、俺達は変化してゆく世界を眺めていたが―――



「これは―――!!?」



 変化を重ねていく世界に、徐々に募っていく強烈なまでの既視感。

 漆黒が形作ってゆく見慣れた造形の高層建築物・・・いや。

 建築物()は、最早忘れかけていた記憶の中にのみ存在していたその光景は。



「―――ビル、街!!?」



 現代的なガラス張りのビルや、テナントを含んだ雑居ビル。

 規則正しく効率的に僅かな土地すら無駄にすること無く、きっちりと埋め尽くされた街並みは、俺にとっては何もかも見覚えのあるもの。

 固く、滑らかなアスファルトの地面の感触。

 日本語(・・・)やイラストで描かれた煩いほどに主張する様々な店舗の看板が、通路に、壁に張り巡らされている。

 俺の記憶と大きく異なるのは・・・その光景全てがモノクロに染まり、いつもなら何処からともなく聞こえていたザワザワとした街の喧騒が綺麗さっぱり消え失せ、無人となっている点のみ。



「嘘、だろ・・・?」



 もう見ることすら諦めていた俺の中の現実(・・)の光景に、俺はしばらく呆然としてその場に立ち尽くし、その光景を脳に焼き付けていた。


 ・・・帰ってきた。


 偽物だと本当は理解しているのに、ずっと俺の心の中で燻り続けた故郷への未練(おもい)が、俺の中で暴れ狂っていた―――そんな時。



「―――行かないで」



 控えめに、だが確かに感じたその温もりが、俺の激情を急速に覚ましていった。



「・・・もう、大丈夫だよ。俺は、リンを置いて何処にも行ったりなんてしない」



 こんな故郷(げんそう)よりも、俺にはもっと大切な現実が、この手の中に既に存在しているのだ。

 この程度で心を揺らされてしまうのでは・・・到底大事なモノを守ることなど出来はしない。



(―――俺はもう、迷わない)



 俺はリンを強く、強く抱きしめながら、俺はそう誓った。


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