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30.「こうすれば、離れ離れにならないな」


 リンの協力を得ることが出来た俺は、本格的にこの世界の探索を開始することにしたが、先程リンが言っていた『変異』の問題もある。

 長年この世界に居るリンですらそのタイミングは分からないらしいので、今は気にするだけ無駄だと判断して、ひとまずこの街の捜索を行うことにしたのだが・・・それもやはり一筋縄ではいかない。



「・・・うーむ、これ一体どこで折り返してるんだ?」



 この街はいくつかのパターンで構成されているが、その結合部・・・交差点は基本的に十字で構成されている事が多いが、中にはT字路やそのまま一本に繋がっている場合などがある。

 この中の、一本に繋がっている道というのが曲者で、一見では同じに見えるのにも関わらず、実は知らずの内にループして別の場所になっていたりする為、マッピングが正常に行えなくなる。


 それでも、こういった交差点などの構造の違いから、この街はただループ構造になっているわけではなく、あみだくじのような構造になっている・・・というのは分かるのだが、それに何の意図があってそうなっているのかはまだ掴めていない。

 だが、やはりこの街は雑なように見えて、狡猾な何かの意図が見え隠れしているのは確かだ。


 未だに全容を掴めていない状態ではあるものの、経過としては上々だろう。


 そうして、リンと共に街の探索を行っていると、先程俺があの化け物に襲われたであろう場所へと辿り着いた。



「ここは・・・」



 同じ景色が連続しているこの街の中で、ここだけどうして印象に残っていたのかと言うと・・・ここが現実の聖都の大通りに似ていたからだ。

 周りに立ち並ぶ屋台や、露店、レクスさんと話をした喫茶店などが見受けられ、コピペの街並みの中で、唯一生活感のようなものが感じられる。

 とは言え、此処も他と同じで現実とはいくつも違う所が見受けられるし、所詮はコピペの一つでしか無いのだろうが・・・やはり少し気になってしまうのは、ここに来てからあの化け物が現れたということ。

 法則や傾向というのはあくまで推論の域を出ないものだが、この世界で唯一明確な形で俺達に害を為したのは、あの化け物だけだ。

 となると、やはりこの世界の構造などの追求よりも、あの化け物のを調べたほうが得られるものは多いかもしれない。



「リン、あの化け物が出てくる条件とかって何かあるのか?」


「どう、だろう?いつも突然、地面から湧いて出てくるぐらいにしか思っていなかったが・・・」



 リンは少し考え込んで、そう言ったが・・・これは恐らく、あの化け物の駆除という目的だけを支えにして戦っていたリンにとって、あの化け物を倒すという行為が惰性化してしまっているからこその答えなのだろう。

 だが、あの化け物が世界の『変異』に関わりがあるというのが間違いないのなら、青の化け物はきっとこの世界を脱出するための手がかりになるはずだ。

 この世界を構築している元凶を暴き、打倒する必要があるというのは、俺とリンの目的にも通ずるところであり、この世界からの脱出、そして解決には、この世界の法則を暴いてその元凶と退治する必要があるのは明白だ。

 本当なら、レクスさんのパーティーメンバーの捜索、あわよくば救出できればと考えてはいるが・・・お嬢のあの口調からすると絶望的、だろう。

 だから、せめて何か痕跡日手がかりでも見つけられれれば、とは思うが、あくまでも俺達の目的はこの剣に封じられているという魔物を打倒・・・ではあるが、現状ではそれ以外に俺達が出来ることがないというのもある。


 だから取り敢えず今は、足を動かして情報を集めるしか無い。



「その為には検証が必要、か」



 一度あの化け物を倒すとその世界ではもう化け物は出て来ないというのを考えるなら、世界の『変異』とやらを待って検証する必要はあるだろう。

 あの化け物たちの出現に関して考えられる要因としては、時間制限や、特定のポイントでスポーンするなどだが・・・まずは、ある程度の傾向が掴めないことには判断ができない。


『変異』のタイミングがわからない以上、取り敢えずはこの街の探索を続行するしか無い―――そんな事を考えていた時だった。



「―――っ!」


「―――ぅお!?」



 いきなりリンに抱きつかれたかと思ったら、急に視界がぐにゃりと歪んで、足元から崩れていくような強烈な不快感に襲われた。

 その直後、急速に世界が形を変え始め、民家や店の立ち並ぶ街は、粘土をこね回すように、周囲の世界は一つに纏められ、黒色の塊のようになった。

 やがてその黒色の塊はドロリと解け、不定形となった闇の中から、街と同じモノクロの色をした木々が現れ始めた。

 その風景は世界が創り変えられているようにも感じられ、同時にこの異様な光景こそが、リンの言っていた世界の『変異』なのだろうと俺は瞬時に理解した。

 そんな異様な光景が繰り広げられる中で、辛うじて分かったのはリンの体温のみであり、きゅっと握られた手からは少し震えていることが伺えた。

 世界の『変異』が終了するまでの時間は恐らく数分程度。

 真っ黒な闇に溶けた視界の中で、蠢き、姿を変えていく闇はひたすら不気味だったが、リンのお陰でそれほど取り乱さずに済んだ。

 そして、ようやく『変異』が終わると俺達は先程まで居た街は跡形もなく、鬱蒼と木々が茂るモノクロの森へと姿を変えていた。



「リン、大丈夫か?」


「・・・あぁ。平気、だ」



 ただ、それよりもずっと震えていたリンが心配で声を掛けると、改めて俺に抱きついて、ようやく安心したようにへにゃりと口角を緩めた。

 そんな様子に俺もまた安心させられて、小さなため息を一つ溢した。



「本当にいきなり変わったな・・・」



 初めて経験した『変異』。

 どんなモノかと思っていたが、本当にリンの言葉通り世界が姿を変えるとは、正直思っても居なかった。



「私はなんとなく『変異』の前触れがわかるが・・・それでも、あの感覚はニガテだ」



 やはり、『変異』の寸前にリンが抱きついてきたのはそういう事だったか。

 なんでも、長年の勘のお陰・・・らしいが、それでもあの『変異』の瞬間は慣れないというのは、なんか分かる気がする。



「確かに、あれはちょっと不気味だったなぁ・・・」



 俺も『変異』の瞬間は正直ビビってしまっていた。

 びっくりするような刹那的な恐怖ではなく、じわじわと心を侵食していく闇のような、本能に訴えてくるような恐怖は確かに、慣れる気がしない。

 だが、リンの心配事はそうではなかったらしく―――



「それよりも、私は―――貴方と離れ離れになってしまったらどうしようかと、心配で堪らなかった」



 ・・・なるほど。


 あの闇の中でリンの手が震えていたのは『変異』を恐れていたからじゃなく、俺と散り散りになることを恐れていたからだったか。



「あー・・・確かに。あのまま別々になってたらって考えると怖いな」


「・・・本当に、考えたくもない」



 そう言いながら、ぎゅっと俺に抱きついていた腕の力を強めたが、少ししてリンは何かを閃いたようにそのまま俺の手を取って―――



「―――こうすれば、離れ離れにならないな」



 もう見慣れてしまった下手くそな笑みを浮かべて、笑っていた。


 ・・・この少しの間でこの世界のことはあまり分からなかったが、代わりにリンのことはなんとなく分かってきた。

 人と接することに慣れていなくて、人一倍寂しがりやで、笑うのも苦手だけど―――すごく甘えん坊で、素直で可愛らしい。

 精神年齢だけなら俺よりもずっと高いはずだが、どこか成熟しきっていない純真さを持った、そんな普通の女の子が・・・リンという少女だ。


 リンは俺が側にいることで、孤独から救われたように。

 俺もまた、リンのこの素直で一途な想いに救われている。

 依存・・・というわけでもないが、今しているようにお互いに支え合い、手を取り合っているからこそ、俺達の関係は良好に保たれているのだろう。


 俺は改めてリンの存在に感謝しつつ俺達は共に、手を繋いだまま森の探索を始めた。


※ 最近少し短めの話が続いており、申し訳ありません。

  次回から第二章後半に入りますので、少し気合い入れていきます。

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