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24.「『霊喰い』」


 ―――冒険者協会。


 冒険者たちの活動拠点であるこの施設は、殆どの街に存在しているが、各国の首都に存在している冒険者協会は各地に存在している「支部」ではなく、それらを統括している「本部」となる。

 その為、この「本部」は他の「支部」に比べて圧倒的な規模感を誇っている。

 俺は冒険者を(勝手に)引退した身であり、シピオの街の冒険者協会すら訪れたことはなかったのだが―――



「すっげぇ人と規模だな・・・」



 ―――その規模と人だかりに驚いていた。


 外観からでもある程度は察せられていたが、中に入って再認識させられたのはそのとんでもないデカさだ。

 大型ショッピングモールのような大きな吹き抜けのエントランスには、先程の大通りで感じたような熱気と喧騒が入り混じっており、いくつもの受付カウンターが設置されている東側では受付嬢が凄まじい数の冒険者の対応をしているのが伺えた。

 その他にも、併設されたいくつものテナントでは武器やら防具やらを売っていたり、レストランや食堂のような飲食店があったり、1階の大部分が酒場のようになっていたりと色々凄い。

 ただ、人でごった返しているように見えても、その人の流れは規則正しく整然とした印象を受けるのが少し不思議だった。



「呆けてないで、さっさと行くぞ」


「あ、すんません」



 そんな光景を呆然と眺めていた俺の意識を引き戻すように、親父さんは何の躊躇もなく、そんな人の波の中に飛び込んでいった。

 俺も親父さんを追うようにその中に紛れて、親父さんの横に並び立ってその流れに沿いながら歩みを進めていく。



「親父さん、随分慣れた様子ですけど、ここ来たことあるんです?」


「ある・・・というか、昔は食うに困って冒険者をやっていたこともあったからな。その時此処を拠点していたからな。だから、俺にとっては馴染み深い場所なのさ」


「あぁ、なるほど・・・」



 いつだったか、マレットちゃんに親父さんが元冒険者だったと聞いたことがあった。

 マレットちゃんが、学園に興味を持った原因でもあるらしく、かなり熱心に教えてくれたが、一時はSSランク冒険者としてそれはもう凄まじい活躍をしていたそうで、冒険者を引退して鍛冶師に専念することになった時も、かなり惜しまれながらのことだったと、目をキラキラさせながらマレットちゃんは教えてくれた。

 因みに、親父さんが冒険者を引退した原因は結婚と・・・足の負傷のせいだ。

 その負傷の後遺症は未だに続いていて、今も右足を引きずるようにして歩いていたりする。

 それさえなければ、冒険者と鍛冶師、二足の草鞋を履くとんでもない人間になっていたかもしれない。

 そう言えば恐らく「もう歳だしな」と返されるのは目に見えているから言いはしないけど。



「さて、あそこだ」



 人の流れに乗って、大分歩いて人の流れが緩やかになってきた頃、冒険者協会の奥側にひっそりと存在していた「一般受付」と看板の掛かったカウンターが俺たちの目的地であったらしく、親父さんはそちらの方へと迷わず歩いていった。

 「一般受付」のカウンターは入口付近にあった冒険者用の受付とは違ってチラホラとしか人がおらず、その格好も冒険者らしさとはかけ離れたような商人などがギルド職員と談笑をしていた。



「おい。すまんが、ギルドマスターに繋いでくれ」



 そんな中で、手空きで事務作業を行っていた受付嬢に親父さんが放ったそんな言葉に、その受付嬢は一瞬何を言われたのか理解出来なかったらしく、ピシリと固まったように動きを止めていた。

 ただ、それは他の客・・・というか職員も同じだったらしく、みんな一様に親父さんの方を見て固まっていた。



「え、えっとぉ・・・?申し訳ありませんが、お名前を伺っても宜しいでしょうか・・・?」



 どう対応したら良いか分からない様子の受付嬢は、ガチガチに固まった笑みを貼り付けて事務的な反応を見せたが―――



「クロウ。クロウ=スミスだ。多分その名を伝えればヤツも出てくるだろうよ」


「―――っ!?し、少々お待ち下さいっ!?」



 親父さんの名を伝えた瞬間、慌てたようにカウンターの奥へ飛び出していったその受付嬢と、ざわつく周囲。

 その様子を眺めていた俺は、イマイチ状況が理解できずにその場でぽけーっと立ち尽くしていると、ドスドスと大きく響く足音がカウンターの奥から聞こえてきて。



「―――おいおいマジかよ!本当にクロウじゃねぇか!」



 そして、カウンターの奥から顔を覗かせたのは、2mを優に超える筋肉隆々の無精髭を蓄えたスキンヘッドのおっさんで。

 そのおっさんは驚いたような、でも嬉しさを滲ませたような声で、親父さんの方へと近づいて来た。



「久しぶりだな・・・ヴァン」



 そんなおっさんに対して、親父さんもいつもの仏頂面を少し崩し、軽く手を上げて久々の再開に頬を緩ませていた。



「いきなり来やがるからビビったぜ!取り敢えず、此処で立ち話もなんだ!執務室でゆっくり話聞かせてくれや!」



 はっはっは!と豪快に笑うおっさんだったが―――



「だ、だめですよぉ!こういうのはきちんとアポイントメントを取っていただかないとギルドマスターの業務などの問題もありますしぃ!」



 おっさんを連れて来た受付嬢に、割と正論を言われていた。



「ばっきゃろぉ!ダチが折角、遠路遥々やって来たってのに、仕事なんてやってられっかよ!」


「そんなこと言っていつも仕事サボるから書類の山が無くならないんですよぉ!」


「うるせー!だいたいあんなの、ハンコ押すだけのもんじゃねぇか!そんなの俺じゃなくたってできらぁ!」


「だから駄目ですってぇ!?」



 が、そんな事がどうしたとばかりにおっさんは、強引に受付嬢の正論をねじ伏せて親父さんを執務室へと連行していったのだった。


 ・・・



「いやー、ホントひっさしぶりだなぁ!こうして会うのは何年ぶりだぁ?」


「・・・娘が生まれたことを報告しに来た以来だろうな」


「そうかそうか!それで、娘は元気か?」


「あぁ。今は学園に通ってる」


「クロウの娘だ!将来有望だろうなぁ!」



 冒険者協会3階にあるギルドマスターの執務室は、そこかしこに書類が散乱していて、ひどい状態だった。

 辛うじて来客用のソファとテーブルは書類に埋もれること無く、無事だったが長いこと使われていないのか、薄っすらとホコリが積もっていた。

 軽く叩いて、ホコリを払ったおっさんと親父さんはどっしりとソファに腰を下ろして、世間話に花を咲かせていた。

 この場にいても良いのかと思いもしたが、一応着いてきた俺は出来るだけ存在感を消して話の邪魔にならないようにしていたのだが―――



「そっちのヤツはクロウの弟子か?」


「あぁ。かなり出来るぞ」


「あのクロウが遂に弟子を取ったかよ!なぁ、アンタ名前は?」


「れ、レイです。レイ=スミス」



 いきなりだったので、少しどもり気味にそう返すと、おっさんは不思議そうな表情を浮かべながら「・・・スミス?」と首を傾げていた。



「―――クロウんとこの娘は結婚でもしたのか?」



 おっさんのその言葉に思わず吹き出してしまった俺だったが、親父さんはそんな俺を面白そうに眺めながら、口を開いた。



「いずれはそうなるかもしれんな?」



 親父さんは間違いなく俺を誂うつもりでそういったのだろうが、俺としてはとても反応に困る。



「なるほどねぇ。まぁ、長いこと生きてりゃあ息子の一人もできらぁな」


「まぁな」



 親父さんのその言葉で、おっさんはある程度事情を察したのか、顎に手を当てて髭を指で撫で付けながら、そんなやり取りをして俺の方へニヤリと笑みを向けた。



「そうそう、俺の自己紹介がまだだったな!俺ぁヴァン=ビアード!クロウは現役時代の相棒だったんだぜ?」



 なるほど。

 それで親父さんはこのおっさん・・・ギルドマスターと知り合いだったってわけか。

 恐らく、周りの反応的にも元SSランク冒険者というのも効いているのだろうが、そりゃあアポ無しでもギルドマスターと面会出来るわけだ。



「えっと、俺も改めて。レイ=スミスです・・・一応、鍛冶師見習いやってます」


「クロウの弟子とは思えねぇほど丁寧だなぁ!」



 ガッハッハ!と豪快に笑うおっさんだったが、その言葉には一切嫌味は感じない。

 こんな些細なやり取り一つで、双方の信頼が感じ取れるほどには大分長い付き合いらしいのがわかった。



「―――それで、今日は一体何の用事できたんだ?弟子の顔見せにきたわけじゃあねぇんだろう?」



 そしておっさんは、一頻り笑うと表情を正してそう言うと、手間が省けたとばかりに親父さんがおっさんに説明を始めた。

 つい一週間前に折れに魔剣を押し付けた冒険者がいた事。

 その冒険者がこのティークに所属していた冒険者である事。

 そして、その冒険者のランクがSである事。


 最後に―――



「―――これが、そいつが押し付けていった剣だ」



 傍らに抱えていた剣をおっさんに見せると、おっさんは目を丸くして、深刻そうに眉間に手を当てて深い溜め息を吐き出した。



「まさかとは思っちゃいたが、マジで『霊喰い』かよ・・・」


「『霊喰い』ですか・・・?」



 早速、なにか訳知りの様子のおっさんは俺の質問に答えるように続けた。



「こいつはな、とあるダンジョンの最奥に封印されてた曰く付きの魔剣だ。こいつのせいでとある冒険者パーティーはほぼ全滅した上に、この剣を調査しようとした職員まで死んじまった」



 ニビルさんと親父さんの目論見通り、この剣は相当ヤバいものだったらしいが、想像を超えてくるほどこの剣の曰くとやらはヤバかった。



「この剣に触れたヤツは何であれこの剣に霊を取り込まれて喰われちまうんだと。だから『霊喰い』なんて物騒な異名がついたわけだが・・・」


「・・・じゃあ、なんでこの剣こんなところにあるんです?」



 そこで一つ、疑問に思ったことは、そんな危険な剣が何故、俺達の手元にあるのか?ということだ。

 普通、そんな物騒な剣ならば何らかの封印指定を受けるはずだが、この剣はこうして俺たちの手元にあるのはおかしい。

 この布・・・聖骸布のレプリカとやらも盗まれたものと言われていたこと考えると、もしかすると―――



「実際、その件は封印されてた・・・ハズ(・・)だ。その事件があってから、ティークの教会の地下にある聖域に安置されていたはずだしな」


「・・・この布―――聖骸布のレプリカって盗まれたんですよね?もしかしてこの剣―――」


「―――盗まれた可能性が高い、ってか?そりゃあ、十中八九そうだろうなぁ」



 やっぱり、か。

 だが、此処で明言しないのはなにか訳があるのだろう。



「だがな、この剣が安置されてた聖域は今は埋まっちまってて確認する術がねぇ。だからなんとも言えねぇってのが、俺から出せる精一杯の回答だな」


「なるほど・・・」



そうなれば、今回の騒動の犯人はもう殆ど見えたようなものだ。



「ま、ここまでくりゃあ、お前らにこの剣を押し付けた冒険者ってのは一人しかいねぇだろうな」


「えぇ・・・そうでしょうね」










「―――そいつの名は、レクス=ノーマン。元Sランク冒険者で、その魔剣によって壊滅させられたパーティーの唯一の生き残りだ」



※ 予告で既に察している方は多かったと思いますが、これからが本番です。

  恐らく、本日は後一話投稿いたします。

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