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22.「こいつは・・・『魔剣』だ」



「・・・それで、この剣って一体何なんです?」



 親父さんと二人、並んで街を歩きながらずっと気になっていた事を聞いてみると、親父さんは顔を顰めながら、できるだけ小声でボソリと呟くように口を開いた。



「こいつは・・・『魔剣』だ」


「魔剣って―――」



 確か、悪魔が宿った剣だったか。

 いまいち悪魔とやらが想像着かないが、聖剣(おじょう)がこんな感じなので、てっきり人形っぽい何かを想像していたのだが、お嬢のあの過剰な反応といい親父さんの反応といいどうやらあまり良いものではないのはなんとなく理解できた。



「この魔剣は、恐らく中に宿ってるのは悪魔じゃあない。魔物・・・いや、もっととんでもないものかもしれない」


「そういうのって分かるものなんです?」


「分かる・・・が、正直経験とか感覚から来る勘みたいなもんだ。お前さんが分からんのも無理はない」



 感覚・・・って言われるとあの存在感みたいな、奴がそうなのかもしれないが、確かに聖剣も精霊剣も見分けがつかない俺からすると、確かにキツイだろう。



「そもそも悪魔ってどんなのなんです?」


「悪魔ってのはな、打った人間の霊・・・それも悪意や執念が宿ったモンのことを指すんだ。だから、悪魔は人の形をしてることが多いし、精霊みたいなモンなんだが―――」




『―――全然一緒じゃないわよ!アイツら人から生まれてる癖に人のこと見下してるバカだし、力の対価を寄越せ―って、バカよバカ!』



 そんな親父さんの言葉に割り込むように脳内でお嬢が補足・・・というか、訂正をしてくれたが、お嬢の扱き下ろし方がバカしか言ってないが、お嬢の声が聞こえていない親父さんは続けて説明を続けていた。



「だがこの剣には悪魔が宿ってるわけじゃあなく、元は精霊剣だったものに何らかの魔物か何かを封じてるみたいだが、殆どその魔物に乗っ取られちまってる」


「あぁ、だから魔剣なんすね・・・」



 『魔物に乗っ取られてる精霊剣』だから「魔剣」ね・・・やっぱややこしいな!?

 


「こんな厄介なモン、押し付けちゃたまらんからな。本人に返す」


「って言っても、あの客の名前も知らないし、どうするんです?」



 俺が親父さんにそう言ったとほぼ同時に、親父さんは歩みを止めた。



「―――だから、ここへ来た」


「ここって・・・」



 そこは「二ビル武具店」の看板の掛かったいつも世話になっている人がいる場所で、親父さんは躊躇なく店のドアを開いて中へ入っていった。



「―――邪魔するぞ」



 うちの店よりも大分広く、シックな印象を受ける店内にはウチとは比較にならないぐらい様々な武器やら防具やらが陳列されており、その中には親父さんの作品もいくつか見受けられ、今も俺たち意外にもチラホラと冒険者らしい客が見受けられる。

 やっぱりウチとは大違いだなと、苦笑いを浮かべていると俺たちの来訪に気がついたらしいニビルさんが小走りでこちらへやって来た。



「む?これはこれはクロウさん、レイさん!今日はどうしたので?」



 ニビルさんは白髪頭の、商人らしい上品な印象を受けるダークブラウンの革のベストと白いシャツに、アンダーリムのメガネを掛けた、如何にも老紳士といった風貌のお爺さんである。

 この人は、親父さんのように鍛冶師というわけではなく、見ての通り武具商でいつもうちに色々と仕事を回してくれている人で、俺もかなり世話になっている。



「悪いが、今日は仕事の話じゃあないんだ」


 親父さんはニビルさんにそう断りを入れながら、奥の商談スペースである応接室の方を親指で指した。



「・・・なるほど。では、こちらへ」



 ニビルさんは、親父さんが傍らに抱えているモノをみて、粗方事情を察したらしく、応接室の扉を開けて俺たちに入るよう促した。

 そして応接室に入るやいなや、親父さんは傍らに抱えていた魔剣をテーブルの上に置き、覆っていた布を取り払った。



「やはり、ですか」



 その中身(まけん)を見て、ニビルさんは取り乱すでもなく、少し眉を顰めただけで、テーブルの前に備え付けられていた黒い革張りのソファに腰を沈めながらそう呟いた。



「あぁ。大方、ニビルのとこにもやって来ただろう?」


「えぇ。つい・・・2日前のことですな。その剣を引き取って欲しいと言われましたが、一目見て私には扱えないと思い断ったのですが、どうやらウチ以外でもそう言っていたようで」



 どうやらあの客は、ここ以外にもいくつもの武器屋でこの魔剣を売ろうとしたらしいのだが、この魔剣は曰くがありすぎてどこの店も引き取ろうとはしなかった。


 だが―――



「どうやらその時、魔剣の扱いに困った誰かが、クロウさんの存在をその客に溢したらしいのですよ」



 その過程で、精霊鍛冶師である親父さんのことを知ったあの客はうちにやって来たのだろうが・・・。



「恐らくその客がレイさんに魔剣を押し付けていったのは、その腰の剣が原因かと」


「あぁ~・・・」



 確かに、聖剣(おじょう)を下げてるヤツをその精霊鍛冶師だと勘違いしてもおかしくはないかもしれない。



「それにしたってそんなヤバい剣押し付けていくなんて、迷惑極まりないなぁ」


「それほど切迫していた、ということなのでしょうが一歩間違えれば、レイさんもこの魔剣の犠牲者になっていたしれないと思うと、肝が冷えますな・・・」



 心底安心したようにため息を漏らすニビルさん。

 本当に優しい人だなと感心してしまう。



「・・・それで、他にそいつの情報はないか?」


「そういえば、売買の際に冒険者ライセンス提示していたのですが―――」



 ニビルさんは一泊置いて、その続きの言葉を吐き出した。



「―――Sランク、だったのですよ」


「Sランクって・・・」


「なるほどな。Sランクほどの実力者であるなら魔剣の入手も出来る、か」



 ニビルさんの言葉に驚いていたのは、どうやら俺だけではなく親父さんも驚いたように目を見開いていたが、どこか納得したように頷いていた。

 確かに、あの客の身のこなしは相当なものだった。

 ちょっと人間辞めてる俺ですら全く動きが見えなかったし、あの客を追って外に出たときにはもう見えなくなるほどのとんでもない逃げ足をしていたことを考えると、Sランクと言う称号は納得できる。


 だが・・・。



「どうしてあんな格好してたんでしょう・・・?」


「うーむ、それに関しては私も分かりかねますな」



 Sランク冒険者があんな浮浪者のような恰好なのはなにか訳があるのだろう。

 もしかしたら、少し前の俺のように何らかの理由で冒険者を引退したとか、そういう事情でもあるのだろうか?



「あぁ、それと。これは今回の件とはあまり関係ないと思いますが・・・この魔剣を包んでいるこの布、これは最近ティークの聖堂から盗まれた聖骸布のレプリカだと思われます」


「こ、これそんな凄いもんなの!?」


「えぇ。この見事な装飾、まず間違いないかと」



 そんな凄そうな布を力ずくで破ろうとしたことを思い出して、思わず背中に冷や汗を伝って行くのを感じた。



「あの客の冒険者ライセンスの発行元はティークになっていますし、恐らくあの客はティークの冒険者協会に所属していた可能性が高い。となると―――」


「・・・ティークまで行って確かめるしか無い、か」



 ―――でしょうなぁ。


 そう頷いたニビルさんは、ソファから立ち上がって再度、俺達の目を見てニビルさんは続けて口を開いた。



「幸い、明後日にティークで商談があるのです。よろしければ、お二人もご一緒しますかな?」


「それは・・・願ってもないことだが、いいのか?」


「それはもう。いつもお二人には世話になっておりますからな。それぐらいの面倒は見させていただきたい」


「・・・助かる」



 いつも世話になっているのは俺達の方な気もするが、本当に二ビルさんは良い人で助かった。



 ・・そうして。



 俺たちは、あの客の行方を追うために聖都ティークへ向かうこととなったのだった。





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