1. 角砂糖
少し飲みすぎたのか、頭が痛い。これが薬の副作用でないことを祈りたい。
夜は私を優しく包み込んでくれる。その代わり孤独や寂しさも一緒に長く長く居座り続ける。
それは昔から私にたくさんの紅茶を飲ませて、ゆっくりゆっくり絶望と向かい合わせていた。
母には小さな頃から言われた。
「しっかりしなさい。泣けばいいってものじゃないのよ。」
だから、みんなが眠る夜は唯一、弱気になれる時で、泣いても許される時だった。
よく泣いていた。言葉にならないから、何度も詰まりながら。醜く。泣いていた。
これだから今でも夜につけ込まれて、余計なことで苦しくなるのだ。
―私は何がしたいのだろう
今も紅茶が離せない。
紅茶に溶ける角砂糖を見ながら、今日のことを思い出してみる。
隆司の匂いがまだ残っていることに気づく。おそらくシャンプーの匂い。
隆司は別れ際、私の頭をぽんっとたたいて笑っていた。
「幸せ?」と聞いたら、「恥ずかしいから言わない。」と言っていた。
このまま、次に会うまでに私がいなくなったら、隆司はどうするつもりなのだろう。
言えなかったことを後悔するだろうか。それとも、そんなに好きじゃなくてよかったと思ってくれるだろうか。
後者だったら嬉しい。
そう思ったら、本当に消えてしまおうかという気になってきた。
今なら、隆司もさほど傷つかないだろう。
過去に付き合った女の内の一人くらいにとどまるだろう。
特別に行き着くと、私はいつもこうなってしまう。
だから、
悲しい、私はとても。
そして寂しい。
これが夢なら良かったのに。
現実なんかじゃなかったら良かったのに。
そう思って、そこで考えるのをやめた。夜に考え事だなんて本当に良いことがない。
全部がネガティブになってしまう。
そういえば隆司が言っていた。
「ネガティブはよくないよ。」と。
隆司は何も分かっていない。でもだから良いのだと私は思う。
すべてを理解されたら、きっと嫌われてしまうから。
理解なんてしないでほしい。できるなら、見て見ぬふりをして、抱きしめてほしい。
隆司とは明日会う。
明後日は久しぶりに菜月に会う。
十分に幸せじゃないか。
恋人も友達もいる。
隣には黒い大きな犬だっているのだから。
何も不安がることなんてないのだ。最初から。